モビールを作り始めた理由

モビール作りを始めたばかりの頃、「なぜモビールを作り始めたの?」と聞かれることがよくありました。その質問を受けるたびに僕は答えに窮してしまい、うまく答えることができませんでした。僕がモビールの作家であれば、作品づくりについてしっかりと答えられていたかもしれませんが、僕が目指したのはプロダクトのメーカーだったため、モビール以外にも経営的なお話を含まざるをえません。その背景からお伝えしようと思うと簡単にはお話しできなかったのです。今回は今までお伝えできなかった、モビールを作り始めた動機について、少しお話ししたいと思います。

モビールを作ろうと思い立ったのは2008年頃で、当時は安価な中国製の製品が世の中に多く出始めた頃でした。実際、2009年の流行語大賞には、中国製の安価な衣類を表した言葉「ファストファッション」が選ばれています。僕はこの風潮に強い違和感がありました。単純に、安価ではあるけど粗雑に作られたモノが身の回りに増えていくことに耐えられなかったのです。当然のように「なぜ?」という疑問が沸きました。そして、そのことを追究していけば経済構造に突き当たるのも必然でした。その現実に耐えられないのであれば、独立して自分の好きなやり方を見つけるしかありません。何か自分の納得いくモノやサービスを作り、納得いく形で経済活動に参入すること。それが僕に与えられたミッションでした。そして、見つけたテーマがモビールだったのです。

なぜ、モビールだったかといえば、それが僕の思い描く経済活動のカタチにピッタリだったからです。例えば、北欧のモビールを最初に見た時にすぐに手作りでしか作れないことが分かりました。一般的な考えとは真逆かもしれませんが、量産ができないことは、まず最初の条件だったのです。量産できてしまうものであれば、いくら良いモノを作っても、大きな資本を持っている企業が同じようなモノを作り、すでに持っている販路へ容易く流通させていくでしょう。そうなれば、勝ち目はありません。というよりも、そこにある戦いは僕にとっては価値のないものです。それよりも、簡単には作れない良質なモノを作り、それをどうやって市場へ送り込んでいくか。そちらの方に興味がありました。純粋に、丁寧に作られたモノをこの世界に増やしていきたかったのです。

商品が陳列されている様子。2014年頃から少しずつ百貨店にも並ぶようになりました。
商品が陳列されている様子。2014年頃から少しずつ百貨店にも並ぶようになりました。

モビールを選んだ理由は他にもあります。紙と糸のみで作れるので、安価に始めることができ、大きな機械も必要ありません。資本に頼らない経済活動を始めるには重要なことでした。また、モビール自体がまだあまり作られていないため、たくさんの可能性があることも感じました。すでにあるモノを作るより、まだ出てない独自の商品を作る方が魅力的に感じたのです。また、単純にモビールがたくさんの家庭につり下がるシーンを想像するとワクワクしました。その他、細かい話をすればキリがないのですが、とにかくモビールという題材が、僕の思い描いていた経済活動のテーマにとてもよくフィットしたのです。

こうして、僕のモビール作りは始まりました。そこから5年後の2013年に事業化して、本格的な経済活動が始まります。今年2023年はちょうど10年目の節目の年です。今ではたくさんのお店にお取り扱いいただけるプロダクトにまで成長して、量販店でも販売されています。最初に思い描いた通り、丁寧に作られた良いモノを、自分の納得のいく方法で、大きな市場へ届けることができたのです。この10年間に起きたことや考えたことは、とても書き尽くせないほどたくさんありますが、また少しずつお話しできたらと思います。「モビールを作り始めた理由は何ですか?」という素朴な質問に、長い時間かかってしまいましたがようやく答えられたような気がします。

商業施設の一角で展開した時の様子

商業施設の一角で展開した時の様子
商業施設の一角で展開した時の様子。10年の間に販路も少しずつ大きくなってきました。