一点物のモビール

オリジナルのモビールを一点だけ作りたいという問い合わせが時々あります。製品のモビールは、量産することを前提としているので、あまり手間がかかることはできなかったり、パッケージに収めるために大きなサイズにはできなかったりと、いろいろな制限があるのですが、一点物のモビールの場合は、コストが許す限り自由に作ることができます。製品ではなかなか実現できなかったアイデアを試したり、作りたいものをイメージ通りに作ることができるので、とてもありがたい機会です。今回は、これまで作ってきた一点物のモビールをいくつか紹介できたらと思います。

一つ目は、北海道のこども園から依頼を受けて作ったモビールです。赤ちゃんが眠る上で回る大きなモビールを作りたいということで、製作が始まりました。イラストは、モビール「海の仲間たち」を手がけたイラストレーター・ワキタヨシコさんにお願いしました。ワキタさんの提案でメリーゴーランドのモビールを作ることになったのですが、これが実は初めて作った巨大なモビールで、幅1m以上もあります。製品のモビールでは、紙の貼り合わせをするほどコストが増えるので、色数にも制限があります。一点物であれば何枚でも贅沢に貼り合わせられるので、色数をふんだんに使い、かなりカラフルなモビールができあがりました。芸術品と言えるぐらいの美しいモビール。一点だけ反省点は重量が重くなりすぎたことです。初めてだったので、まだ軽量化することまで頭が回らず、紙を何枚も貼り合わせたこともあり、重くなってしまったのです。制限がないとはいえ、見た目にこだわりすぎてモビール本来の役割が損なわれてしまったことは、反省すべき点でした。

一点物のモビール

モビール「メリーゴーランド」(2017年)

 

二つ目は依頼ではないのですが、東京のデザインフェスティバルのために、大きめのモビールが作りたくて、自主的に作りました。東京の銀座にあるアパレルブランドのお店のショーウィンドウに飾らせていただく企画で、高いデザイン性が必要でした。イラストをお願いしたのは、モビール「ジャングルフォレスト」を手がけたベルギーのデザイナー・Inge Rylantさん。一つ目の反省点をふまえ、重くなりすぎないように、余分な紙はできるだけ使わないようにしました。最終的に生物多様性を感じさせる素敵なデザインのモビールができあがり、イベントでも大変好評でした。ショーウィンドウに飾ることで、さらに魅力が増したように思います。大きなモビールは、見るだけでなく空間装飾の役割もあります。家庭にモビールを届けるだけでなく、ホテルや施設のロビーなど、どこか空いた空間に、大きなモビールを吊り下げていくのも、一つの仕事になるとこの時に思いました。

モビール「sunny garden」(2021年)

 

最後は最近作ったモビールです。広島の食品会社さんからの依頼で、地域の名物でもある「鯛」のモビールを作りたいというお話をいただきました。毎年ひなまつりの時期に、吊るし飾りをたくさん飾るイベントを開催しているようで、そのメインの飾りに選んでいただいたのです。今回は僕が自分でイラストから全てを手がけました。こだわったのは初めての試みとして半透明のトレーシングペーパーを使ったところです。トレーシングペーパーは光を通すので、そこに濃淡が生まれます。これによって鯛のウロコに奥行きを出すことができました。また今回はかなり軽量化にも成功しました。無駄な紙は使用せず、シンプルなデザインを心がけて、棒の部分は木材を使っていますが軽いものを選びました。大きいのに、少しの風で軽やかに回るモビール。モビールが吊るし飾りと異なるのは、やはりこの滑らかに動くところだと思うのです。11匹の鯛が光を浴びながら空中を優雅に泳ぐところをうまく表現できたのではないかと思います。

「鯛」のモビール

「鯛のモビール」(2025年)。トレーシングペーパーを使うことで、表現の幅が広がりました。

 

このように製品から一旦離れて、自由な作品として作ることができる一点物のモビールは、僕にとってはとても良い刺激になります。トレーシングペーパーのアイデアなど、ここから生まれたものをまた製品に活かせたりもするので、とてもありがたい機会です。
空間装飾という意味でももっと様々な場所にモビールを吊るしていきたいです。家庭の中だけでなく、社会の様々なシーンで、モビールの活躍の場はまだまだ広がっていきそうです。