クリスマスモビールができるまで

今年もクリスマスが近づいてきました。これまでクリスマスのモビールはいくつか手がけてきましたが、今年は新たにツリーをイメージしたモビールを作りました。こちらのデザインを手がけていただいたのが、東京で活躍するデザイナー・ムラタトモコさん。今日は、ムラタさんのデザインの魅力が詰まったこちらのモビールが生まれるまでのことをお話しできたらと思います。

いつか作りたいと思いながら、なかなか実現できていないモビールがいくつかあるのですが、そのうちの一つが抽象的なカタチのみで構成されたモビールでした。必要最低限の形と色のみで構成されたモビールは、カッコいいなぁと思いつつも、なかなか踏み込めない領域でした。
ムラタさんからモビールを作りたいとメールをいただいたのは昨年の終わり頃。ウェブサイトにあるポートフォリオを拝見して、すぐに前述のモビールのことが浮かびました。抽象的なカタチと色、それに質感や滲みやズレ、カスレまでが考慮されたデザインは、素晴らしい魅力に溢れていました。これらのデザインがモビールになる姿を想像するとワクワクして、早速お願いすることにしました。挙げてきていただいたラフ案は2つ。

最初にいただいたラフ案2種

 

どちらの案もとても素敵で、すぐにサンプル作成まで進んだのですが、ここまで来て重大なことに気づきました。それはこのモビールを売る場所がないということです。これまで作ってきたのは赤ちゃんや子ども向けの言わば家庭用のモビールです。当然、販路もそれに合ったお店に限られてきます。このモビールに合うミュージアムショップやギャラリーのような販路は持っていなかったのです。
作品であれば、実現できていたでしょう。しかし製品である以上は、売ることを考慮しなくてはなりません。それからしばらくの間、案件自体がストップしてしまいました。このまま無くなっていく案件も中にはあります。ムラタさんのデザインがモビールになるところを見たかったので、どうしてもあきらめきれませんでした。

半年近くが経過した今年の夏頃、突然名案が浮かびました。いつか作りたいと思いながら、なかなか実現できていないモビールに、「クリスマスツリー」もありました。ツリーのカタチと、ムラタさんのデザインが、バチっと合うところがイメージできたのです。クリスマスツリーというモチーフ自体が家庭的なので、これまでのコンセプトからも外れません。すぐにお声がけし、ツリーのモビールで再度デザインをお願いすることになりました。できあがったモビールを眺めていると、だんだんとムラタさんのデザインに対する理解が深まってきました。

完成したクリスマスモビール
完成したクリスマスモビール

抽象的な表現は、無機質で冷たい印象を与えることが多いのですが、ムラタさんのデザインからは、自然の造形物のように生き生きとした温かい印象を受けます。後に知ったのですが、ムラタさんは自然にあるもの――例えば雨の滴や木々から漏れる光、風の流れや水面の波紋など――からインスピレーションを受けているようで、それがデザインに表れてくるのでしょう。微妙な線の揺らぎや、素材の質感、色の滲みや掠れなど、アナログでしか表現できない要素を巧みに盛り込んでデザインされているのが分かります。
良いモビールができるときは、必ずと言っていいほど、テーマとデザインがマッチしています。とくに自然を意識してツリーを提案したわけではなかったのですが、きっとムラタさんのデザインに導かれたのでしょう。自然から受けたインスピレーションが、また自然のモチーフであるツリー=木に戻ることで、本物のツリーにも劣らない自然を感じさせるモビールができたのだと思います。

素材である紙もまた、木から生まれたものです。今回はムラタさんの希望でいつもとは異なる質感の紙を使用しています。一年に一度のクリスマス。本物のもみの木を飾るのは難しいかもしれませんが、もみの木と同じように自然を感じることができるこちらのモビールを、ぜひご家族のクリスマスに迎え入れて頂けると嬉しいです。

クリスマスモビール

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ムラタトモコ プロフィール

イラストレーター/テキスタイル作家
東京造形大学造形学部美術学科絵画専攻卒業
文房具の商品企画、テキスタイルメーカーの企画デザインを経て、活動開始。
「心にそっと寄り添い、小さな幸せを感じられるデザイン」をテーマに、暮らしの中で心に留まった風景を図案に落とし込みテキスタイルやドローイングで表現している。オリジナルテキスタイルや紙ものの制作、イラストレーション連載や企業コラボレーションデザインを手がける。

Home Page: https://www.tomokomurata.com/
Instagram: @murata_____tomoko