モビール普及の壁

モビールが日本でなかなか定着しない理由の一つに、取り付け方の問題があります。「モビール欲しいんだけど、どこにどうやって飾ったらいいか分からない」「うちには飾るところがないから」など、これまでにそんな言葉をたくさん聞いてきました。以前にも書きましたが、モビールはじつは1970年代頃に一度、日本に入って来ていました。ただその当時は日本の住環境に合わなかったのか、その後すぐに姿を消してしまいました。2000年代に入り、北欧ブームとともに再び日本に入ってきたのです。70年代当時とは住環境は大きく変わったと思うのですが、やはりまだ一家に一つというほど定着していないのが実情です。その理由は何なのでしょうか。

一番根本にあるのは、やはり家に対する日本人の考え方にあるのではないかと思います。家に入る時に靴を脱ぐ習慣からも分かる通り、他の国に比べて外と家の境界が強く、自分もそうですが、家を傷つけたり汚したりしたくない気持ちが強いと思います。モビールを取り付けるために、天井に穴を開けたりすることに抵抗があるでしょうし、賃貸のご家庭であれば尚更そうではないでしょうか。欧米ではもっと気楽に家を改造したり、「壊れたら直せば良い」ぐらいの感覚でいるのではないかと思うのです。中国人のお客さんからもこんな話を聞いたことがあります。「日本人はインテリアに全然こだわらない。全部、家にお金使う。家買ったらそこで終わり。中国では家にそんなにお金使わない。その分、インテリアにこだわる。」あくまで、一つの意見かもしれませんが、確かにそのような傾向があるように思います。そんな中で、なかなかモビールを取り付けようとは思わないのかもしれません。

 一番簡単な画鋲での取り付け。ただし天井に穴が開くことを嫌がる人も多い。
一番簡単な画鋲での取り付け。ただし天井に穴が開くことを嫌がる人も多い。

さらにモビールの普及を阻むもう一つの壁は、取り付け方が難しいということもあります。ポスターや絵画であれば、壁に取り付けるための器具なども定まっており、床から届く壁面に取り付けられるので、ほぼどの家庭にもその姿を見ることができるのではないでしょうか。モビールの場合、壁に取り付けても回らないので、壁からある程度距離を置いた、高い位置から吊り下げる必要があります。そのため、天井に取り付けようと思うと椅子か踏み台に乗らないと難しく、女性には慣れない作業だったり、更にポスターのように画鋲で刺せば良いかと言うとそうでもなく、天井の材質によっては画鋲が刺せなかったり、落ちてきたりしてしまいます。

両面テープなどの粘着系も試しましたが、強力なものは、剥がすときにクロスが剥がれてくる危険がありますし、多くの家庭で利用されている塩ビ系のクロスには汚れを防止するための塗装がされているため、粘着がつきにくいこともあります。そもそも天井が高く、椅子などに乗っても届かないご家庭もあります。つまり、ご家庭によって、取り付け方や取り付けられる場所が異なってきてしまうのです。これがメーカー側もなかなか取り付け方を提示できない理由かと思います。

家の作りによって、適した場所が変わるので、取り付け方を提示しにくい。
家の作りによって、適した場所が変わるので、取り付け方を提示しにくい。

とはいえ、逆に言えばこの取り付け方の大きな壁を乗り越えることができれば、もっとモビールは広まると思っています。もちろんこれまでにも良い取り付け方がないかは試行錯誤してきました。最近では市販のものでも、跡が目立ちにくい針が細い画鋲だったり、塩ビ系のクロスにも貼れる両面テープなども発売されているので、何種類も集めて実際に自分の家で試しました。女性でも取り付けやすいように、天井まで登らなくても、壁から突き出す方法は無いかなども考えました。(現時点で提示できる取り付け方は末尾にあるリンクにまとめましたので、よろしければご覧ください。)

70年代のように、モビールが日本から消えていくか、定着していくかは各メーカーが取り付け方や、設置後のイメージをうまく提示できるかにかかっていると言っても過言ではないと思うのです。ゆくゆくはどの家庭でも簡単に取り付けられる万能な方法を一つ見つけて、提示できたらと思います。その時こそ本当にモビールが一家に一つある時代になっていることを夢見ています。

壁から棒を突き出して飾った例。
壁から棒を突き出して飾った例。

モビールの取り付け方(その1:画鋲編)
モビールの取り付け方(その2:粘着シート編)
モビールの取り付け方(その3:壁から棒編)