心境の変化

コラムの最初の頃にモビールの歴史について書きました。アメリカで生まれた芸術作品としてのモビールが、北欧で知育玩具として生まれ変わり、さらにそこへ日本人の視点を加えて生まれたのが、マニュモビールズのモビールでした。その中の一つの要素に“棒を省く”というものがありました。北欧やヨーロッパのモビールによく見られる棒を省くことで、モチーフ同士が一体感を増し、物語感を生み出すことが狙いでした。実は棒のタイプのモビールを作ったことはこれまでに一度もありません。自分が作らなくても、すでに優れたモビールがたくさんありましたし、デザイン以外の可能性を模索していたこともありました。

マニュモビールズの従来のモビール。棒を省くことでパーツ同士が一体となり、物語感があるのが特徴。
マニュモビールズの従来のモビール。
棒を省くことでパーツ同士が一体となり、物語感があるのが特徴。

ですが、最近になって心境の変化がありました。自然な気持ちで、棒のタイプのモビールを作ってみようと思ったのです。新型コロナウイルスの影響もあり、国際情勢で変動する輸入の商品よりも、国内の安定した商品の方にスポットが当たっています。このまま店頭からモビールが消えていくよりは、ヨーロッパのモビールの代わりになる国産のモビールを自分たちの力で市場へ送り込みたいと思いました。

また、モビールに関することは全て網羅したくなったこともあります。これまでは模倣や二番煎じにならないように、ずっと棒のタイプのモビールを避けていたのですが、「今なら勝負できる」と思いました。 棒のタイプは、デザインが主軸の要素になります。物語感を前面に出した従来のモビールとは異なり、できるだけ不要な要素を省いた上で、モチーフのみを際立たせる必要があります。初期の頃よりもデザインに対しての理解が深まった今、少なくとも過去の名作と同じ土俵には乗れるのではないか。マニュモビールズらしいオリジナリティを棒のタイプの中でも表現できるのではないだろうか。そんな風に初めて思えたのです。

こうして初めて作った棒のタイプのモビールが、こちらの3羽の鳥が回るモビールです。

棒を使った初めてのモビール。<br />3羽の鳥がくるくると回ります。
棒を使った初めてのモビール。
3羽の鳥がくるくると回ります。

モビールといえば最初に思いつくのが、鳥のモチーフで、過去にもツバメやコウノトリなどの優れたモビールがありました。最初はやはり王道の定番モチーフで作ってみたいと思ったのです。棒の部分には、紙ストローを使用していますが、他にも選択肢はいろいろあります。ヨーロッパのモビールを検索していただくと分かりますが、木や針金でできたものや、ややアーチ状に曲がったものもあります。じつは曲がっている方がバランスが取りやすく、直線的なものはバランスが取りにくいのです。その分、危うい均衡を保ちながら回るので、より「動き」に焦点が当たった作りになります。「紙と糸のみ」というコンセプトはキープしたかったのと、従来のモビールではできなかった「動き」に特化したモビールにしたかったので、紙ストローのような素材が一番適していました。また、作ってみて初めて分かったのですが、棒のタイプは「軽さ」が特に重要な要素と思いました。軽い方がよく回り、ふわふわと上下にも動きやすいのです。これまでのように紙の貼り合わせはせずに、極力軽量化しました。鳥の羽は組み立て式にして立体感を出しています。

紙の貼り合わせを行わず、羽を差すだけの簡単な作り。
これまでのモビールとは異なり、極力シンプルな作りになるように心がけました。

 

簡単なことのように思えますが、この一つの仕掛けがあるかないかで、随分変わってきてしまうのです。軽量化しつつ、どれだけ品格を保てるかというところが、大きなポイントです。これまでのモビールの半分以下の価格で製品化を予定しているので、安価でありながら、品質と品格はそのままでなければ、とてもヨーロッパのモビールと肩を並べられないでしょう。

このモビールは、夏休みに子供たちが作れるワークショップ用に作りましたが、これに改良を加えて、来年には製品化を予定しています。いろいろな意味で「軽さ」が重要なので、「マニュモビールズ Light」シリーズとして、新たにリリースする予定です。初めて真剣に向き合った棒のタイプのモビール。そこには、「Light」という名前とは裏腹に、これまでの気持ちの「重み」が込められています。

 

ふわふわと上下にも動きます。
危うい均衡を保ちながら、滑らかに動く姿をぜひ動画でご覧ください。