鯛がつないでくれたご縁

先日、以前のコラムでご紹介した一点物の鯛のモビールを見に、広島県福山市まで行ってきました。食品メーカー様からの依頼で作ったこちらのモビール。11匹の鯛が泳ぐ巨大なモビールで、毎年3月に同社が開催しているイベントのメインの飾りとして製作させていただきました。無事に納品はしていたのですが、実際に飾ってあるところを見てみたかったのです。

そもそもの始まりは突然の電話でした。年輩の男性と思しき声で、一点物の鯛のモビールを作りたいというのです。のちに知ったのですが、声の主は広島では誰もが知っている食品メーカーで会長をされている方でした。通常、遠い土地の場合は、オンラインでの打ち合わせや、メール・電話などでのやり取りだけで製作は進むのですが、その方は広島から名古屋まで来て直接打ち合わせをしたいと言うのです。あまりないことだったので不思議に思っていましたが、実際にお会いすると納得がいきました。

打ち合わせの後でたくさんお話を聞くことができたのですが、なかでも一番印象的だったのは「ビジネスの常識は非常識」というものです。たとえば「モビールを考えられる限り、大きくしたものと小さくしたものでどんなモノができそうか考えてごらん」とおっしゃるのです。僕がパッと浮かんだのは、小さいのは卓上に置けるグラスぐらい、大きかったら吹き抜けの建物の上から吊り下がるぐらいでしょうか。僕がそう言うと、会長は笑いながらこう返しました。「僕だったら小さいのはボールペンに入るぐらいで、大きいのはビル一棟分ぐらいかな」と。極端に言っているとは思うのですが、これくらい飛ばした発想から入っていかないと価値のあるものなんてできない、ということだと思います。「非常識」というのは「独自性」のことだと思うのです。本当に独自で価値のあるものであれば売りに行かなくても、向こうから買いに来てくれるというのです。
もう一つ印象的だったのは「好きでやっている」を越えて「楽しんでやっているか」ということ。好きでやっているうちは、それはまだ自分一人が楽しんでるだけ。好きを超えて、本当に楽しむことができたとき、そこに人が集まってくるし、みんなも楽しんでくれるというのです。

どちらもとても深く心に刺さりました。僕はこの時、ものづくりの先にあるモノを売るという部分で壁に当たっていました。モノを作るということのノウハウはだいぶ蓄積されてきて一段落していたのですが、「売る」ということについては思うようには進まず、乗り越えるべき壁がまだたくさん控えているように感じていました。会長はその壁を越えるために、自らの肩を貸してくれているように思えたのです。

福山市で再会した時にも、30分ぐらいの短い時間でしたが、たくさんのアイデアとインスピレーションをいただきました。会長になってもまだ現場で独自のアイデアを実践されている姿に改めて感動しました。今回製作したモビールは、水中にいることしかできなかった鯛が地上に出てきて、空中を泳ぎ回るという意味も会長の頭の中にはあったのかもしれません。鯛がつないでくれたご縁に感謝して、またいつか成長した姿を見せられるように進んでいきたいと思います。

 

社屋に向かう途中。塀の上の置物にも、会長の遊び心を感じます。