モビールの本質

モビールを作り始めてもう10年以上経ちますが、最近になってようやくその本質が分かってきました。日本語では「動く彫刻」と訳されるモビール。僕も作り始めた頃は、単純に風や気流で動くオブジェが、モビールと思っていました。ただ、一方でモビールの定義に何かが足りないというのはずっと感じていました。ただ風で動けば良いかというと、それだけではないような気がしていたのです。元々「モビール」とはアート作品の呼び名で、その作品のために与えられた造語なので、定義すること自体がナンセンスかもしれません。でも、これだけ一般化した今、特にモビールを作っている者としては、その本質を明確にするのは重要なことでした。

きっかけはふと、ベッドメリーとモビールの違いは何だろうと考えたことでした。ベッドメリーといえば、赤ちゃんが寝ている上に取りつけて、主に電動でくるくると回るおもちゃです。回転に合わせてライトが光ったり、音楽が流れるものもたくさんあります。陽気な音楽と一緒に回転するものを見るとご機嫌になったり、寝かしつける時は、静かなオルゴールのような音楽に変えれば、回るものを見ているうちに赤ちゃんは眠りにつきます。つまり、ベッドメリーの用途は、赤ちゃんをあやしたり、寝かしつけたりするためのアイテムというわけです。一方、モビールはどうでしょうか。音楽やライトはありませんが、回転するというところは共通しています。ただ、その回転はベッドメリーが一定の速度で回るのに対して、モビールは不規則です。自然の風や気流で動くため、ゆらゆらと揺れたり、ふわふわ上下に動いたり、止まったり、また動いたりと読めない動きをします。この動きは何かと言えば、「自然の動き」だと思うのです。外で木の葉っぱが揺れたり、雲が流れていったり、水が波紋を広げる動きと同じです。そして、実はそういった動きを表現するものが部屋の中にはほとんどありません。モビールが唯一、自然の動きを表現するアイテムだと言っても過言ではないと思うのです。

ベッドメリーと赤ちゃん
ベッドメリーと赤ちゃん

ベッドメリーとモビールの違いは、そこにあると思います。ベッドメリーが赤ちゃんをあやしたり寝かしつけたりするための道具であるのに対して、モビールは自然の動きを感じてもらうためのアイテムです。特にまだ外に出ることが少ない赤ちゃんにとっては、自然の動きを見ることができる貴重な機会です。モビールの外見は、赤ちゃんに楽しみも提供できるように可愛らしい動物などが描かれたものが多いですが、一番の本質はこの「自然の動き」を表現することだと思います。穏やかに回るモビールを眺めていると自然と心が落ち着くのはそのためではないでしょうか。

モビールを見つめる赤ちゃん
モビールを見つめる赤ちゃん

以前のコラムでも書きましたが、モビールを最初に作った芸術家アレクサンダー・カルダーのモビールが、ブルーノ・ムナーリによって「植物の彫刻」と評されたのには納得ができます。木がゆっくりと成長していく様や、風で木の葉や枝が揺れる様子を物体で表現したものが、最初のモビールだったと思うのです。これまで、カルダーの作品のように極度に抽象化した表現をする意味が見つけられなかったのですが、モビールのその本質が分かってくると、一度トライしてみたくなってきました。純粋に自然の動きだけを表現するためには、どのような形にするのが相応しいのでしょうか。本質に近づくほど形はシンプルになっていくはずです。まだまだモビールでできることはたくさんありそうです。お部屋の中で自然の動きを感じられるアイテム。その本質にもっと近づいていきたいと思います。

植物を連想させるカルダーのモビール
植物を連想させるカルダーのモビール