第15回 古都と新しい工芸 vol.3

第15回 古都と新しい工芸 vol.3

 僕にとっての出張旅行は、一種の「フィールドワーク」。
 土地の空気を知ることは、器や工芸に対する理解を深めることにつながるので、訪問先の周辺にある名所を訪ねたり、名物をいただいたりすることも、大事な仕事の一部だと考えています。
 昨年末、京都市伏見区にある小林裕之さん希さんのガラス工房を訪ねたときは、洛南(伏見を含む京都市南部の総称)でこれまで行ったことがない場所へ……ということで、萬福寺という名刹に足を延ばしてみました。

第15回 古都と新しい工芸 vol.3

 萬福寺は伏見の南隣・宇治市にある黄檗宗の本山で、日本にインゲンマメを伝えたと言われている隠元禅師が17世紀に開いたお寺です。
 隠元禅師は中国から招かれた高僧なので、建築様式はやはり中国風。総門の扁額の文字や卍崩しの意匠を用いた欄干を眺めているとエキゾチックな気分になるし、お堂に鎮座するふくよかな布袋さまの表情には大陸的な大らかさを感じることができます。

第15回 古都と新しい工芸 vol.3

 洛南は、平安京遷都のずっと前から信仰を集めていた伏見稲荷大社があり、貴族文化を象徴する平等院があり、さらに天下人・秀吉が壮麗な花見を催した世界遺産の醍醐寺もある、という異文化共生の地。
 ならば、ここに異国情緒ただよう禅寺が建てられたことも、さほど不思議なことではないのかもしれません。

第15回 古都と新しい工芸 vol.3

 こういった事例は、洛南だけではなく洛中(市中心部)にも広くあてはまりそう。
 京都というと「保守的」とか「排他的」といったイメージを持つ人も多いでしょうが、実際にフィールドワークしてみると、古いモノと新しいモノが共生している様があちこちで視界に入ります。「進取の気性」というものもまたこの街の持ち味のひとつなのですね。

第15回 古都と新しい工芸 vol.3

 器を含む工芸についてもまた然り。
 やきものや塗りものなどの伝統工芸だけではなく、現在はガラスのような新しい工芸がしっかりと根付き、そんなところにも京都らしい「進取の気性」を感じ取ることができます。
 前回お話しした小林裕之さん希さん夫妻も、その担い手として精力的に活動する一組。京都に工房を構えるということは、「伝統工芸との共生」というアドバンテージを得ること。小林さん夫妻には、そんな地の利を活かしながら、「日本のガラス」と呼べる美しい造形デザインを生み出していってほしいと思います。