第38回 有田と染付 vol.5

有田と染付

佐賀県有田町で、前回お話しした泉山磁石場の下から、およそ2キロにわたって続くのが「内山」の街並み。
商家や窯元など、江戸後期から明治・大正・昭和にかけての名建築が立ち並び、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。これまでさまざまな窯業地を訪ねましたが、これほど整った街並みは有田以外で見たことがありません。

有田と染付

日本の磁器の発祥地として、また世界に名を馳せたOLD IMARIの生産地として、圧倒的なアドバンテージを得た有田という町がいかに栄えてきたか、内山地区の景色からはそのことがわかります。
現在、この地区には香蘭社や深川製磁といった高級磁器メーカーの立派な洋館があり、ショールームとして使われているので、中に入ることも可能。陳列されているうつわが素晴らしいのはもちろんですが、建物の美しい意匠にも目を奪われてしまいます。

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また、表通りから一歩入ると、細い路地を縫うように築かれているのが「トンバイ塀」。
これは登り窯に使われていた耐火レンガ(トンバイ)や土製の窯道具などの廃材を埋め込んで作った屋敷塀で、他の土地では見ることができない有田ならではの風景だと言えそう。
路地裏をそぞろ歩くだけでも、歴史ある陶郷の空気を感じることができるでしょう。

そして……。
ここからはまたもやちょっと寄り道の話です。

有田と染付

有田の町を満喫したら、帰りに温泉にでも寄って陶郷めぐりの疲れを癒したいところ。
そんなときには、内山地区の最寄り駅・上有田から上りの佐世保線に乗って武雄温泉駅まで(約15分)。
こちらで注目したいのが、温泉の入口に立つ楼門。竜宮城のようなイメージの朱塗の門で、東京駅と同じく辰野金吾の設計。国の重要文化財にも指定されているそうです。
僕が行ったのは夕方近くだったのですが、朝は楼門の二階を見学できる時間帯もあるらしいので、その時間に合わせて訪ねてみるのもよいかもしれません。

有田と染付

 

追記
この楼門の天井の四隅には子・卯・午・酉、四つの干支が彫られていた絵が掲げられているそうで、東京駅のドームに掲げられている八つの干支のレリーフと合わせると、十二支がすべて揃うのだとか。
それにしても、辰野は、何故このような謎かけ的な装飾を東京⇔佐賀という離れた地に配したのでしょうか……。