第6回 越前のやきもの vol.3

第6回 越前のやきもの vol.3

前々回のコラムで触れましたが、日本には、中世から続く六古窯と呼ばれるやきものの産地があります。
その六つの産地の中でいちばん小規模なのが、福井県の越前町。かつては日常雑器の生産によって隆盛を極めたものの、明治の近代化の流れの中で一度は衰退。それでも昭和期に見事に再興し、現在は数十軒の窯元と作家が陶業を営んでいます。
前回紹介した土本訓寛さん久美子さん夫妻は、この町内の、古窯跡が多く発見されている小曽原という里山に居を構えて作陶活動をしています。

第6回 越前のやきもの vol.3

自ら土を掘り、精製し、成型し、薪窯で焼く ――。
土本さんの作陶の特徴は、やきもの本来のオーガニック感を大事にしているところ。ただ、そういう制作スタイルは、頭で考えたコンセプトに基づいたものではなく、作ることに対する純粋な喜びから発した自然な帰結。
お二人と話したり作品に触れたりすると、そのスタイルが、作り手としての本質を形成する心の奥深い場所から発したものであることに気付かされます。

第6回 越前のやきもの vol.3

陶芸が家業という位置付けであるならば、技は「血の力」で継承されてゆくものですが、再興後の越前焼に関してはそういう要素が少なく、「土地の力(もしくは『土の力』)」が作り手たちを引き寄せ、技が継承されてきたと言えそうです。(土本さん夫妻も町外からの移住)
このことが意味するところは存外大きいのではないでしょうか。
血が繋がっているわけではないけれど、千年前の工人と同じ土を使って作陶を続ける作り手たち。そこには目に見えない工人スピリットの継承が存在しているように思えてなりません。
縁あってこの地と関わりを持った僕には、これからもその営みをしっかりと見守ってゆく義務があるような気がしています。

第6回 越前のやきもの vol.3

そして、ここからはおまけの話。
いつも土本さんの工房を訪ねる時は武生という町を経由するのですが、ここのご当地グルメとして注目されているのが、ボルガライスなる洋食メニュー。
みんなが大好きなとんかつとオムライスが合体したもので、お店によって、味付けや盛り付けはまちまち。その発祥については諸説あって、経緯は謎だとのこと。県都・福井市にはソースカツ丼というご当地メニューがあるので、それと何か関係があるのかな?
訪れるたびに違うお店で食べている僕ですが、近い将来、ボルガライス評論家としてデビューするかもしれません。(←ウソです)