第21回 笠間とスタンダード vol.1

笠間とスタンダード

人気陶芸家がたくさん出てきたり、NHKの朝ドラが信楽の女性陶芸家をヒロインに据えたり、どうやらここ数年、空前の“うつわブーム”がやってきている模様。いろいろな雑誌でうつわの特集が組まれているし、僕のようなしがない器屋でも、様々なメディアから“うつわ語り”のオファーをいただくことが増えている状況です。
ただ、この世界に長くいる人間なら、このようなブームは今回がはじめてではないことを知っています。
思えば、僕がこの世界に入った20年前は、四半世紀前に世を席捲した大きなブームの熱気がまだうっすらと残る頃合いでした。

笠間とスタンダード

四半世紀前のブームは、“食生活の西洋化”や“バブル時代の飽食”に対する反動がそもそもの起点(=清貧志向)。「日本の良いものを再発見し、自分たちの暮らしを見直そう」という意味合いが多分にあり、“和食器ブーム”と限定してしまってもよいような動きでした。“器”より“和”に重きが置かれていたような印象でしょうか。
では、今回はどうだろう?と考えてみると、景気低迷による“内食志向”と、むしろそれを楽しんでしまおうという“食生活の多様化”がブームを支えているように見えます。この“多様化”という新たなキーワードは、和だとか洋だとかの大きなカテゴライズを無意味なものにし、個々のうつわの好みを、面白い方向性でクラスタ化させているように思います。

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そしてもうひとつ、前回と今回のブームの大きな違いが、“作り手と使い手の関係性の変化”。
前のブームは、センセイとファンという感じで、作り手の感性が一方通行で使い手に向かっていたと思うのですが、今回は、(SNSの発達のおかげで)作り手と使い手の関係性がフラット。両者が同じフィールドに立って美意識を共有し、キャッチボールをしているような状況が見受けられます。
そのことは、「使い手がほしい器を、作り手が察知して作ってくれる」という関係性にもつながりそう。
ブームというのはやがて収束するのが常ですが、今回の動きは、もしかしたら一過性のものではなく、手仕事の世界に新しいスタンダードを生み出すための大きな地殻変動のはじまりなのかもしれません。
僕としては、このブームが各々の暮らし向きを見直す良い契機になり、そのまま、うつわを楽しむ生活文化が広まって定着してゆけばよいなあ、と淡い期待を抱いているところです。

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そんな現代のうつわブームを牽引する作り手の一人が、茨城県笠間で作陶をしている阿部慎太朗さん。
彼が作るのは、ヨーロッパの古いうつわにインスパイアされた半磁器の作品たち。うっとりするような美しい陰翳を生み出すうつわは、ロマンティックでありながら、甘さは控えめ。押し付けがましいところが一切なく、使い手が自分の暮らしを投影できる“余白を持たせたデザイン”には好感が持てます。
こうしたうつわが評価されるあたりが、前回のブームとの違いかもしれません。
これらの作品を生み出すことになった阿部さんの想いや背景にまつわるおはなしは、また次の機会に。