第8回 会津の塗りもの vol.2

会津の塗りもの

 漆は、さまざまな工芸的役割を果たすことができる優れた素材。
 それらの役割をまとめてみると、以下の三点に集約できるのではないかと思います。

 1.木をコーティングする役割
 2.色を混ぜて器を装飾する役割
 3.素材と素材を接着する役割

 会津在住の村上修一さんは、このような漆ならではの特性を活かして、様々な創作活動をしている漆作家です。
 前回の記事で掲載した漆器の写真は、すべて村上さんの作品ですが、ああいった新作制作の他に数年前から手がけているのが、会津の古い漆器を入手し、それを修復して新しい器として蘇らせる仕事。

会津の塗りもの

 たとえばこの蓋椀は、会津の伝統的な装飾である「錆絵」を施した古い器。
 砥粉と漆を混ぜたペーストを使い、陽刻のように文様を描く加飾技法を錆絵と呼ぶのですが、今では作られることも少なくなり、アンティーク品として見かけることがほとんどです。
 ただ、アンティークの場合、痛みのはげしい個体が多いのも確か。収蔵が目的であれば、そのまま所有するのもよいと思いますが、僕は、こういう器を「塗り直して日常で使う」という選択肢があってもよいと考えています。
 その際に大事なのは、できるだけ本来の姿を損ねないようにすること。そのあたりをわきまえながら、古い器を生きた器に変えてゆく仕事には興味を覚えます。あたかも新旧の職人によるトーチリレーのようで。

会津の塗りもの

 また、錆絵とともによく見かける会津塗の装飾パターンが、色漆と金箔で吉祥紋を描く「会津絵」。
 こちらの吸物椀も、錆絵のお椀と同じく本来の味わいを生かし、そのままの状態が保たれるよう、控えめに塗りを重ねて修復しています。
 会津絵には現代の作り手による新作もありますが、鮮やかさが抜けて色目が落ち着いた修復品もなかなか。こちらの空気感に心くすぐられてしまうのは、僕が渋好みだからでしょうか。

会津の塗りもの

 これまで紹介してきた修復品は、前述の漆の役割のうちの1と2を活かしたものですが、陶磁器の修復法である「金継ぎ」は、3の要素を活かしたもの。
  7年前の地震の後は、器が割れてしまった話をよく耳にしたものですが、漆を「接着剤」として使えばそれらの修復が可能で、僕の友人たちは、お気に入りの器を村上さんのところに持ち込んで直してもらっていました。
 時間をかけて破片を漆で丁寧に接着し、仕上げに金粉や錫紛を蒔くことで、独特の風合いを持つ仕上がりに。
 金継ぎというのは復元と同義ではなく、前とは別の器として新たな命を与えることなのだと思います。

 こういったことを通じて漆の役割について考えてみると、これまでとは異なる漆の世界が見えてくるのではないでしょうか。それにしても、樹液にこんな優れた機能を与えた自然の力には、畏敬の念を抱かずにはいられません。