第30回 秩父の織物 vol.2

秩父の織物

ふだんお店ではテーブルウェアを中心に取り扱っていますが、器以外の分野であっても、モノづくりにまつわる現場を訪ねてみることは、とても大事だと思っています。
前回お話しした「ほぐし織(銘仙)」は、本来であれば、僕のような器屋にとっては専門外の分野になるのかもしれませんが、この布はいったいどうやって織られるのだろう?という疑問がふつふつと沸き上がり、昨年の春、秩父にある織元(おりもと)・新啓織物の工場を訪ねてきました。

秩父の織物

ほぐし織の絹織物である銘仙は、近代になり関東で生産されはじめたもの(足利・桐生・伊勢崎・秩父・八王子が五大産地)。
秩父は古くから養蚕や絹織物の生産が盛んだった土地ですが、明治末期になると、坂本宗太郎という人物により「ほぐし捺染」という染+織の技法が開発され、それまでになかった自由で大胆な絵柄の織物が生産できるようになりました。
この技術の発明により、銘仙を大量に生産することが可能になったそう。あざやかでモダンな着物が手に届きやすい価格で供給されるようになったことから、秩父銘仙は大正から昭和にかけて女性たちの心をつかみ、「おしゃれなふだん着」として当時一世を風靡しました。いわゆる大正ロマンとか昭和レトロモダンとかのイメージでしょうか。

秩父の織物

昨年訪ねた新啓織物は、いまある秩父の織元のなかでは最も新しい創業だそう。現在は二代目の新井教央さんが後を継ぎ、ほぐし織ならではのあでやかな織物を生み出しています。
我々部外者は、織物生産者の方たちを、どこの産地でも通用する「織元」という呼び方で呼びますが新井さんは、自らの職業を「ハタヤ」と呼びます。この言葉、伝統の担い手であることの自負とともに、織りのプロであることの矜持がそこはかとなく感じられる呼び方だと思います。

秩父の織物

ほぐし織について説明するのは少々難しいのですが、ひとことで言えば「先染めの平織物」というカテゴリーに入ります。
ただ、「先に染めた糸を織る」というだけのシンプルなものではなく、その工程は複雑かつ繊細。
字数が尽きてきたので、詳しくは次回に譲りますが、ごく大まかに言えば、「織る(仮織り)」→「染める(捺染)」→「織る(本織り)」という手の込んだ工程が、このほぐし織の特徴。
織りと織りの間に染めの作業が挟まれる独特の手順を経て、美しい反物が作られてゆくのです。