第19回 秋田と日常使いの器 vol.4

この春訪れた秋田では、前回 お話しした白岩焼(角館)の他に、くるみの樹皮やイタヤカエデを使った籠などの手仕事も見てきました。
こういった作品は今でこそ、インターネットを通じてどこでも手に入れられるようになりましたが、かつては地産地消の品物(いわゆる民芸品)として地元限定で出回っていたもの。

くるみ籠

たとえば、田沢湖の近くにある生保内(おぼない)地区在住の藤沢柳市さんの手になるくるみ籠。
藤沢さんがタウンユースの籠バッグを制作するようになったのはここ数年ですが、腰に下げる籠や背負い籠などは幼い頃から編んでいたそうです。というのも、このあたりはタケノコの産地。かつては、山で使う道具は自らの手でこしらえるのが当然だったと言います。
街歩きに使いたくなるような籠バッグも、その原型は必要に応じて作られた民具だったわけですね。

イタヤ籠

また、角館の市街地で、佐藤定男さん一家によって制作されているのが、イタヤ籠。
この籠が独特なのは、樹皮や蔓ではなく、木の幹の部分を材料としているところ。イタヤカエデの若木を年輪の境目に沿って割いて、平打ちの乾麺のような材を作り、それを編みこんでゆくのです。
質実な印象のこの籠は、田植えの際の腰籠や脱穀用のふるい籠(箕)など、稲作に使う道具を農閑期に手作りしたことが始まりだったそう。
元はくるみ籠と同じ民具。ただしこちらは、農村で使われることを目的とした手仕事でした。

こうした地方色の強い手仕事を手に入れるとき、僕は、自分一人でどうにかしようと考えず、その土地の事情をよく知る方(ここでは「つなぎ手」と呼びます)の助けを借りることにしています。
たとえば、上記のくるみ籠やイタヤ籠との出会いは、秋田でひとり地域調査隊として活動する今村香織さんの紹介によるものでした。
かつて学芸員として働いていた今村さんは、モノの見方が広汎かつ理知的。そのあたりは、もはや在野の民俗学研究者と言ってもよいかも。モノに宿る土俗性や普遍性をじっくりと読み説く真摯さには共感を覚えます。
僕が営んでいるようなちっぽけな器屋が複眼的な視点を確保できるのは、こういうつなぎ手の方たちが応援してくれているおかげなのだと思います。

作り手と産地に対する尊敬の念と、つなぎ手に対する感謝の念。
そういう気持ちを大事にすることではじめて、手仕事を扱う店はひとつのメディア(媒体)として、その役割を全うできるのかもしれません。