第23回 笠間とスタンダード vol.3

もう何年も前のことですが、店のホームページに英訳文を添えてみようと試みたことがあります。
その作業の途中、「産地(=伝統的な窯業地)」の英訳を探したのですが、そういう表現は英語にはなく、ようやくたどりついたのが「production center」という一般名詞でした。

第23回 笠間とスタンダード vol.3

買い付けや打ち合わせのために全国の産地に足を運ぶ僕ですが、それらの場所を訪ねて実感するのは、長い歴史を持つ産地には独特の引力があり、ジャンルの垣根を越えて作り手が集まってくるものだなあ……ということ。
やきものの産地として有名な場所であっても、金工に勤しむ人やガラスを吹く人がいたりするし、最近では、パンを焼く人やお料理を供する人など、食に携わる作り手も増えてきているもよう。
そういった現状を踏まえれば、「production center」という英訳はむしろ適確だと言えるかもしれませんね。

第23回 笠間とスタンダード vol.3

さて、前々回前回と二回にわたって陶郷・笠間のお話をしてきましたが、木工を生業とするコウノストモヤさんは、この町に工房を構えて活動する作り手です。
数年前まで仕事のほとんどはオーダー家具の制作やアンティーク家具の修復など大きなサイズのものが占めていたそうですが、ここ最近はその合間を縫い、食卓で使うお盆や木皿などのアイテムも制作するように。
家具の制作というのは、材の見極めからはじまり、完成に至るまで精確な技術が求められるものですが、やきもの作りとは異なるその手わざが、器サイズの造形にも活かされています。

第23回 笠間とスタンダード vol.3

やきものの産地にいれば、当然のことながら陶芸作家と知り合う機会が増えてくるわけで、そういった交流はコウノスさんの感性に何らかの影響を与えていそうです。そして、ジャンルをまたいだ作り手同士の往来は、長い目で見れば、産地全体の活性化につながってゆくものだと言えるでしょう。
これは笠間に限った話ではなく、伝統的な産地がクロスオーバー的な「production center」として生き延びてゆくことは、SDGs的な観点から見ても有効。そうして積み上げられた創造のエネルギーはやがて、僕たちの生活に「新しい時代の『スタンダードデザイン』」としてうるおいをもたらしてくれるのではないでしょうか。。

第23回 笠間とスタンダード vol.3

ちなみに、冒頭で話したホームページの英訳ですが、進めてゆくうちに、自分自身のあまりの語学力のなさに絶望し、世界征服の遠大な計画(笑)は幻に終わりました。頭の中に残ったのは「production center」という名詞のみ。なんともおそまつ。残念。