第9回 会津の塗りもの vol.3

 いきなりですが、クイズです。
 日本国内で生産されている漆は、日本の市場に出回っている漆のうちいったい何パーセントを占めるでしょう?

第9回 会津の塗りもの vol.3

 資料の読み方によって誤差は生じるでしょうが、2017年の農林水産省の資料(特用林産物生産統計調査)を基にして計算してみたら、3.3%という数字がはじき出されました。

 「え?たったの3.3%?」っていう感じですよね。
 国内消費のほとんどを輸入漆(ほぼ中国産)に頼っている、というのが漆器制作の現実なのです。

第9回 会津の塗りもの vol.3

 磁器が英語でCHINAと呼ばれるように、漆器はかつてJAPANと呼ばれていたそう。
 それほど日本の風土に根付いた工芸でありながら、その素材である漆を自給することはできないのです。

 ただ、自治体や漆器の組合も手をこまねいているわけではありません。
 漆掻き(漆の樹液を採取すること)というと、浄法寺(岩手)や大子(茨城)が有名ですが、それ以外の漆器の産地でも、もういちど漆の木を育てて、自分たちで使う漆は自分たちで賄おうという動きが出ていています。

第9回 会津の塗りもの vol.3

 ただ、漆の増産は一筋縄でいくような話ではなく、難問がふたつあります。

 日本では良質の漆を採取するために、一度採取した木は伐採してしまう「殺し掻き」という方法がとられているため、その後の漆の木の生育期間10~15年を見込んだ長期的な増産計画が必要となること。
そしてもうひとつ挙げられるのが、重労働であり採算ベースに乗りにくい漆掻きを生業とする職人をいかにして確保するか、ということ。いくら漆の木を育てても、採る人がいなければ話になりません。

第9回 会津の塗りもの vol.3

 前回の記事でも紹介した会津の漆作家・村上修一さんは、塗師として漆器を制作する立場でありながら、自ら志願して、6月から9月にかけての時期は漆掻きに従事しています。
 それを決意させたのは、国産漆をめぐる危機的状況だろうし、自分が使う漆の出自についてよく知っておきたいという知的好奇心もあったのではないかと思います。

第9回 会津の塗りもの vol.3

 国産漆は希少であるがゆえに、中国漆に比べて価格も高額。
 村上さんにそのあたりについて訊ねてみると、普段使いの漆器の場合、販売する価格を考えたら、下塗りからすべての工程を国産漆で賄うことは難しいと言います。
 理想はすべての工程で国産漆を使うことだけれど、漆生産の飛躍的向上が見込めない状況を踏まえれば、現実と折り合いをつける思考も大事。「仕上げにだけ希少な国産漆を使う」というような方法でJAPANを廃れさせないようにするのがベターな選択なのかもしれません。

 伝統をスタンダードとして守り続けるのはなんと難しいことなのでしょう。

 [追記]
 文化庁が文化財の修復に国産漆を使うように通知を出したこともあり(2018年度からは全工程に使うよう通知)、国産漆の品薄感はここしばらく解決しそうにありません。