第17回 秋田と日常使いの器 vol.2

中嶋窯(秋田県秋田市)中嶋健一

中嶋窯(秋田県秋田市)の若き窯主・中嶋健一さんが、かつて島根県温泉津にある森山窯・森山雅夫さんのお弟子だったことを知ったのは、秋田を初訪問する数日前のことでした。
森山さんと言えば、名工・河井寛次郎氏の最後の内弟子として知られる陶工。つまり、中嶋さんが師事したのは、民藝運動の中心人物から直接薫陶を受けた重鎮だったことになります。

中嶋窯(秋田県秋田市)中嶋健一

僕は、8年くらい前(中嶋さんが弟子入りする少し前)に一度だけ、森山窯を訪ねたことがあります。

「暮しが仕事 仕事が暮し」という名言を以て取り上げられることが多い河井氏ですが、お弟子には「良い作り手よりもまずは良い人間になれ」という意味合いの言葉も伝えていたと言います。
ここからは僕なりの解釈になりますが、良い人間になるということは、「日々きちんと生活する」ということ。そして民藝運動は、「日常という『ケ』の部分」を健全に育てようという生活思想。師の教えを心に刻み、長きに渡って日常使いの器と向き合い続ける森山さんの姿は、とても崇高に感じられました。

中嶋窯(秋田県秋田市)中嶋健一

さらに、師匠の背中を見て育った中嶋さんにもその姿勢は受け継がれているわけですから、彼が作る器に森山さんと通底する空気が見てとれるのは、ごく自然なこと。
前回触れた通り、はじめて見たはずの中嶋さんのカップ&ソーサーにデジャブのような感覚をおぼえてしまった僕ですが、陶歴を知ることで、その謎は解けました。

河井氏と森山さん、そして森山さんと中嶋さん。
たぶんそこには、目に見えないバトンの受け渡しが存在しているのでしょうね。

中嶋窯(秋田県秋田市)中嶋健一

中嶋さんは現在、民藝的なモノづくりの精神を受け継ぎつつ、新たな挑戦として、地元で見つけた土を使うなど、秋田の空気を映し込んだ日常使いの器を制作。そこには、この場所に腰を落ち着け、土地の力を味方につけながら、長く作陶をしてゆこうという強い意思が感じられます。
中嶋窯は開窯してまだ一年あまりですが、秋田という地でこれからどんな器を制作してゆくのか、工藝にたずさわる人間として、じっくりゆっくり見守ってゆきたいと思います。「継続は力なり」なんてわかりやすい言葉を引き合いに出すまでもなく、暮らしも仕事も継続してゆくことに大きな意味があるのですから。

*注・二枚目の画像について
右は中嶋窯の丸皿、左は森山窯の角皿(筆者私物)。中嶋さんのさらなる活躍に期待。