我家の事務所の壁に日本地図が貼ってあります。平野を表す緑は沿岸部にちょっとあるだけで、ほとんどは山間部を表す茶色です。緑の部分は、まずは住宅地として、さらにサービス業や工場用地として使われ、残りは田畑となり農業用地となります。そうしたものには使えない、「国土の大半を占める茶色の部分」が私たち林業のフィールドとなります。
諸外国ではそうとは限らない。ロシア上空を飛行機で飛ぶと、何処まで行ってもタイガ地帯の平坦な森林が続きます。ヨーロッパの美しい森林国フィンランド、ここもほとんどが平坦地です。木を植える時も、伐採して運び出す時も森林が平坦ならそりゃ楽です。「大型の林業機械を導入してコストダウンする」なんてあっという間です。「とてもかなわんな―」とつくづく思ってしまいます。世界にはこのような平坦な森林も少なくありません。しかし、日本においてはあくまで「森=山」です。ビジネスマンが「会社に行ってくるよ」と家を出るように、「山に行ってきます」と言って林業作業に向かいます。
まずは山に木を植えるのが林業のスタートです。ここ大分県では植林の本数の基本は、1ha当り3,000本です。1haは一辺100mの正方形ですから、1ha=10,000㎡=3,000坪。1坪に1本植えることになります。大分県日田地方は林業の世界では「日田杉」で有名な「本場林業地」で、中津江村はその中心地です。よって植えるのは杉が中心で成長も早く、逆にヒノキには土地が肥沃過ぎて病気が出やすいのです。以前「尾鷲ヒノキ」で有名な三重県尾鷲市の森林を見せてもらいましたが、みごとなヒノキ林の下はシダ類しか生えていない固い地盤のやせ地で、驚きました。
植林は通常春先、まだ寒い2月、3月で苗木の大きさは約40~50㎝。これが大木に生長するのは数十年後ですが、1年半後、すなわち次の年の夏までに成長するのはせいぜい20㎝。ところが、その間に勝手に生えてきた草はあっという間に2mを超え、完全に苗木を覆ってしまいます。覆われた苗木は放っておくと、いつの間にか枯れてしまう。仕方がないから人間が草を刈ります。刈られた草は枯れて肥料となって、杉の苗木は益々大きくなり、1年後にはさらに20㎝以上大きくなりますが、その間に生えてきた草はまたも2mを優に超えて苗木を覆うから、またまた草を刈って・・・これを毎年夏に7年~10年間続けます。通常森の中は涼しいのですが、大きな木がないのですから太陽がまともに当ってとにかく暑い。マムシも怖いが、うっかり蜂の巣を触ったりすると悲惨な目に遭う。延々と続くこの重労働が「下刈」です。死亡事故に繋がるような危険な作業ではありませんが、林業で最も過酷といわれる所以です。
こうしている間に、突然梅雨が明けました。例年7月前半は梅雨の終わりにあたり、この時季はバケツをひっくり返したような豪雨となるのですが、一転して猛暑! 突然の気温30度は体にこたえますが、灼熱のコンクリートジャングルと比べれば、それはもう涼しくて爽やかで・・・次回は、この中津江村の夏についてお話します。