既にお話ししましたが、一本の木を育てるには、膨大な労力と気が遠くなるような時間が必要です。森を育てるための「間伐作業」においても、樹齢50年を超す杉の木を伐るときは、ここまで育った年月を思い、先祖への感謝の気持ちに包まれ・・・と言いたいところですが、チェーンソーで伐り始めたら、あっという間に倒れてしまいます。大木は轟音と共に倒れ、その迫力にはいつも圧倒されます。この地に半世紀の間悠々と屹立していた気高い命が、突然消え去る悲鳴にも聞こえて、恐れ、痛み、無常感・・・一瞬の間に複雑な思いが交錯します。良く手入れされた杉林は、一つの「世界」を創りだし、朝霧に包まれた様はまさに「荘厳」の一語です。こうした森を伐採して出てきた杉材を、誰がどのように使うのか。使っている人は、そうした森林に思いを馳せることがあるのだろうか。
あるとき「ある建設会社が林業に興味を持っているので、会ってみてはどうか」とのお奨めがあり、ご紹介いただきました。最初にお会いしたのは社長の御次男と若いスタッフで、なんとも爽やかで好印象だったので、後日社長ともお会いすることとなりました。この社長さん、60代後半のようですが、とにかく明るくて積極的。手には『里山資本主義』(藻谷浩介著)の一冊。たくさん付箋が貼られて、バイブルのように何度も読み返されたことが歴然です。「これからの日本はこうならなきゃいけない」「地のものを使い、自活を目指すべきだ」「中津江村が自活することに協力し、その成果を地元の自活にも活用したい」・・・ポンポン夢のある話が飛び出し「まずは、中津江村の森林を最大限活用しよう!」ということになり、あっという間に意気投合! 大切に育ててきた杉の木で、家を建てることとなりました。それから時間をかけて何度も話し合い、お互いの立場を理解し、とうとう記念すべき一軒目の建設に向けプロジェクトがスタートしました。じつはこのお施主さんは、最初にお会いした会社の社長の御次男さん。先日奥様も同行されて、当社の森林の中から、お二人で杉の木一本を選んでいただき、それを目の前で伐採しました。
家の設計は美しさと機能性を兼ね備えているべきもの。木の使い方など、こちらからも提案していく予定です。森への思いを持った方に使っていただく喜び。同時にこれから建設する「新居」に使う杉の木を選び、その木が育った森を肌に感じている若いご夫婦を見て、なんだか羨ましい気持ちになってきました。完成予定は来年の春です。