ハチやマムシと格闘した下刈が終わるのは、成長した苗木が5m程度になって周囲の草から完全に頭を出したとき。土地の状況にもよりますが、通常は植林後7~10年です。ここまで来ると、下刈しなくても草に邪魔されることなく木が成長するようになり、それにつれて草は木の陰になり、勢いを失っていきます。夏恒例の草との格闘はこうして終わりを告げます。
次なる敵は「つる」です。街の中で見かける「ふじ棚」、5月の連休頃に美しい藤色の花を咲かせますが、あれが大敵なんです。ふじは、そもそもつる性の植物ですから、何かにつかまっていないと生きていけません。森の中には棚なんてありませんから近くの木に巻き付きます。光を求めて上へ上へとどんどん伸びていって、木のてっぺんに達して上から押さえつける。伸びるに従い、つるは太くなり、風で振り落とされまいとさらに強く巻き付くので、木の幹は絞めつけられていびつに変形し、細い先端部などは折れてしまう。そこでナタなどでつるを切ってやります。これが「つる切り」です。下刈が終わって15~20年、すなわち植林後25年前後までの森林が、つる切り作業の主な対象となります。周囲の草より大きいとはいえ、やっと5mを超えた小さな木ですから、つるが絡み付いて数年もすると、取り返しがつかない位に変形してしまいます。特に土地が肥沃だと木も成長しますが、つるも大量に出てきますから困ります。
下刈のような炎天下の重労働ではありませんし、毎年必ずしなければ木が枯れてしまうというものでもありません。時々見回って、数年に一度はこの作業を行う事になります。しかしこのつる切り作業、終わりがありません。木がどんなに大きくなってもつるはそれに絡まって上に伸び成長します。よって樹齢100年の大木でもつるに巻かれて締め付けられる事があります。
林業のどんな作業で森に入っても、つるが巻きついているのを見たら必ずつる切りをします。小さな木は勿論、せっかく育った大きな木も台無しになってしまうのですから「見つけたら切る」は当然ですが、何よりもつるに巻かれた木を見ると「助けてくれ」と叫んでいるようで、思わずつるを切って食い込んだ幹からはぎ取ってやりたくなる。林業に従事する人々の多くは「よその森でも見つけたら思わず切ってしまう」と言います。
木を愛する気持ちがなければ、木は育たないのです。