九州は他の地方と比べれば温暖で雨量も多く、朝霧が出るほど湿度も高い。そのうえ土地が非常に肥沃ですから、どんどん木が成長します。この成長力を生かすのが九州の林業です。押し寄せる草を刈りつるを切り、植林後15~20年位経つと、杉の苗は高さ5~10m位の若木になります。前述の通り当初1ha当り3000本(つまり1坪に1本)の苗を植えますから苗木と苗木の間隔は約180㎝となります。
その苗が上に伸びるだけでなく横にも枝を伸ばしますから、木と木の間隔はどんどん狭くなります。やがて枝が触れ合うようになり、ついには森林全体の木々が全部べったり触れ合ってしまいます。こういう森林の中に入ると枝と枝が重なり合って、上を向いても空がほとんど見えなくなります。森の中は陽が射さなくなりますから、木の周囲に生えている草も少なくなります。さらに放置すると、懐中電灯で照らさないと足元が見えない状況になります。真っ暗な森林の中には、草は皆無です。あれほど木の成長を阻害した草が無くなるのですから「良かったじゃないか」と言いたいところですが、この状態は非常に危険です。
森林の中の土を掘ってみると、まず枯葉や枯れ枝の混じった「腐葉土」の層があります。木が成長過程で出す老廃物が溜まったこの層は、昆虫やミミズなど小動物の棲み家となり、そのフンや屍骸などの有機物が加わることで、さらに木々の成長を促します。腐葉土の下はしっかりした土の層で、阿蘇の太古の火山活動の影響か、当地ではほとんどが「クロボク」と言われる真っ黒で肥沃な土です。さらに掘って行くと岩の層(岩盤)につき当ります。30㎝で岩に到達する場所もあります。山はじつは「岩の塊」で、表面に僅かに土が乗っている。そのおかげで木や草が生い茂っているのですから、森林の下の土をなんとしても守らなければなりません。
真っ暗になって草が消え失せた森に雨が降ると、雨は直接土に降り注ぎ、表面を流れ落ちるときに腐葉土や土をどんどん持って行ってしまいます。土が流されていくと、木の根が露出してきます。支えを失った木が倒れやすくなるのも危険ですが、急斜面などは土が自重と立木の重みに耐えかねて、土砂崩れとなって集落や道路を襲います。
こうした事態を防ぐためには、木が大きく育って枝が触れ合うようになれば適切に間引きを行い、森林内の明るさを保つことで、常に草が生えている状態に誘導しなければなりません。これが「間伐」作業です。
間伐については次回詳しくご紹介しますが、「森林を守るために木を伐る」という作業があるということだけは覚えていただきたいと思います。