ワークシフト

前回のコラムで、モビールを作り始めた理由について書きました。簡単にまとめれば、それは小さな規模から大きな価値を生み出すための挑戦です。僕に限らず、実際その頃から同じような形で経済活動に参入する人たちは増えてきました。パソコンやインターネットの普及によって、昔であればたくさんの人が関わらなくてはできなかった仕事が、少人数でも可能になったのです。加えて、資本主義の未来を危ぶむ言説が数多く流布され始めた時期でもありました。環境問題もあり、過度に消費を促して回る経済に疑問を感じていた人は僕だけではなかったはずです。そんな背景から、従来のスタイルに縛られず、新たな仕事のカタチを求めて、起業する人たちが増えてきたのです。

今回は、そんな時代の流れの中で、同じような志を感じる企業の中から仕事でもご一緒した2社についてご紹介させていただきます。OEM(Original Equipment Manufacturing)といって、別のブランドから委託を受けて製造のみを行うことがあるのですが、同じ時期に2社から問い合わせがありました。奇しくもどちらも鳥をモチーフにしたモビール製作のオファーでした。

1社目は香川県で和菓子の和三盆を作る日和制作所。代表兼デザイナーの女性の方からメールをいただき、カモメをモチーフにしたモビールを作ることになりました。新商品のレモンを素材にした和三盆に関連するアイテムとして、モビールを選んでいただいたのです。2色のみで構成されたシンプルなデザインも秀逸ですが、モビールには「バガス」というサトウキビを原料にして作られた紙を使用しています。しっかりと環境にも配慮されていて、きっと自社で製作する和三盆にもたくさんのアイデアと配慮が詰まっているんだろうなぁと感じました。

カモメをモチーフにしたモビール

もう1社は東京で福祉施設と協働でデザインを製作する想造楽工(株式会社ニューモア)。こちらも代表兼デザイナーの女性の方からメールをいただき、鳥のモビールを作ることになりました。以前コラムにも書きましたが、マニュモビールズのモビールは、福祉施設の協力で作られています。職人や機械のオペレーターとして障害を持つ方にお仕事をお願いしているのですが、想造楽工では、アーティストとしてお仕事を依頼されています。障害を持つ方がイラストを描き、そのイラストにデザインを加えることで、商業に展開しています。自社プロダクトの利益の50%が障害を持つ方の収入になる仕組みを築いていて、本当に素晴らしい活動をされています。手描きのイラストからモビールにする作業はとても難しいのですが、ここでもやはりデザインの力を加えることで、大きな価値を生み出していることを感じました。

鳥のモビール

ご紹介した2社だけでなく、世界中の至るところで、同じように小さな規模から大きな価値を生みだす企業が増えてきているのを感じています。本来、「作ったもの」を「売る」という流れだったものが、どこかの段階で「売る」ために「作る」に変わってしまったように思うのです。自分たちが良いと思えるモノ(必要と思えるモノ)を作り、それを責任を持って売る。その順番が大事だと僕は思っていて、同じように奮闘する企業を見ると勝手ながらそこが共通しているように思うのです。今回ご一緒させていただいた2社は、環境への配慮や障害を持つ方への仕組みづくりなど、先進的な取り組みにデザインの力を加えることで誰にでも広く愛されるグッズにしているところが素晴らしいと思いました。

少人数であることの一つのデメリットは、関わる人数が少ないがゆえに視野が狭くなっていくことかもしれませんが、こうして一緒に仕事をすることで自分では気づかなかった視点やアイデアを得ることができたり、前向きな取り組みに触発されて自分のやる気にもつながります。働き方が多様化する時代、やり方次第でどんなモノでも作ることができるし、どんなスタイルも可能だということを改めて思いました。