秋のベルリン


いそがしく慌ただしく過ぎていく毎日。金澤攝さんのバウハウスコンサートが終わると、すぐに京都、東京、一旦金沢、そして今ベルリンにいる。

ベルリンは大都会なので知らないところも沢山あるはずだが、慣れた場所にだけ出かける毎日だ。一箇所だけどうしても取り引きすると決めていた本屋さんを訪ねて、今回自分にとって新しい冒険は終わり。
万国共通の典型的な気難しい古本屋のおじさんだったが、一見とっちらかったように見える店内にあるものは、全てひとくせある素晴らしいものばかり。状態の良さからも本屋としての経験の深さがうかがえる。粘りに粘って奥からお勧めのものを出してもらうことに成功した。それは1700年代の印刷物にテキスタイルでコラージュが施された物で、人の一生が表現された8枚の額であった。
あれこれ考える前に反応している私の様子を見て、相手も同業として私を認め始めてくれたよう。物は、経年変化も手伝って上手く侘びたような風情になっており、日本人の感覚にも合うかなと仕入れを決意。

今回はオークション参加がないのでゆったりとしたスケジュールだ。とはいえ、なぜだか疲労は取れないまま日が過ぎゆく。釣り好きの夫は、日本から淡々と釣果日誌を送ってくる。版画屋で版画の山と格闘している時ふと思いつき尋ねると、「鱒はなかなか無いんだ」との返答に反してその種の魚が四枚出て来た。日本に帰ったら額装して我が家に飾らねばと張り切って全部買ってしまった。

泊めてもらっている友人宅に急いで帰ると、映画上映会が始まる。「ズールの寿司屋」という、東ドイツのズールという田舎町にかつて実在した日本食料理店の映画だ。参加者は、元東ドイツ人と元西ベルリン人と日本人。元東ドイツ人家主は、ちょうど先ほど自分が会ってきた幼馴染の叔母さんがズールに住んでいたらしいと語る。ドイツのスーパーマーケット産寿司に日本酒で、自分たちの現国際交流と映画を重ねて意識的に楽しむことを楽しもうとするひととき。コンセプチュアルなところがいかにもドイツ的だ。

その二日後。仕入れもひと段落し友人も時間が取れたので、一緒に休みを取ることに。コッホ通り近くに出来たベルリン美術館のバウハウス展に出かける。ハンナ・ヘッヒの大好きなコラージュ作品を数点見る事が出来た。別の階で開催の「ベルリン美術100年展(1880-1980)」では、1923年の「大ベルリン美術展」のためにエル・リシツキーが創作した一部屋が再現されていて感動。明日は、竹久夢二が1933年のベルリン滞在時に教鞭を取ったというイッテンシューレ(バウハウスの教師でもあったヨハネス・イッテンがベルリンに設立した学校)の建物を見に出かけるつもりだ。