ヨーゼフ・ホフマンの帽子掛け

1月はじめ、京都国立近代美術館を二度訪れた。ウィーン世紀末グラフィック展について広報にエッセイを書かせていただくことになり、一度目はそのエッセイに対してモチベーションを上げるべく、実物を何か見せていただきたいとの資料の閲覧願いのため。二度目は内覧会のため。私にとって、この分野は研究者時代の専門であり、古書籍商開業してからも最もメインに扱いたい分野なので、自然と熱が入ってしまう。あっという間に会期が終わってしまったけれども素晴らしい展覧会だった。内覧会で、幼い頃から知っているギャラリーのオーナーさん(川嶋啓子さん)に偶然会い、すっかり嬉しくなって、次の日思い出のギャラリーを訪ねた(展示は幼馴染の作家さん小林吾子ちゃんの展示だった)ことも大変良い思い出になった。私にとっては、そのギャラリー空間に幼い頃いた体験こそが、美術史上でも画期的なギャラリー空間と定義づけられるウィーン分離派館(Secession Building)を研究するきっかけだったからだ。

同じ頃、ドイツで老舗オークション会社バッサンジュの古書オークションが始まった。合わせて、とあるコレクターさんとのチャットが連日とまらない。このコレクターさんは、たくさんのことをつねづね私に教えてくださって、我が拙い商いを応援してくださり、いくら感謝しても仕切れない方だ。オークションの時期には、大抵、何を購入したいかの楽しいやり取りが始まる。今回もいろいろと情報交換(多くは私がいただくばかりだが)をした挙句の果てに、ヨーゼフ・ホフマンの数枚のスケッチをどちらが入札するかという譲り合いとなってしまった。カタログレゾネなどで、資料の現物確認を再三して、入札締め切り直前にようやく一番価値があるものと思われる華やかな一点への入札をコレクターさんが決意。私は、このオークション会社の古書部長さんとは運良く良い信頼関係が築けているので、即連絡を入れる(なぜ関係が良いかというと、彼の趣味が語学であり、最近は日本語の習得に熱心だからである)。残念ながらその一点は落札かなわなかった。

ところが、その後。オークション結果を見てみると、ヨーゼフ・ホフマン作品の売れ残りがある。帽子掛けのスケッチである。ホフマン以外の売れ残り品も検証するチャットがまた延々と始まった。売れ残り作品は、ヨーゼフ・ホフマンにしては簡素な作品だ(それゆえ売れ残ったのであろう)が、ひねくれ者の私としてはそこが面白いのかなと思いつつ、そんなに仕入れのお金もたくさんあるわけでないしとしばらく躊躇。コレクターさんも同様、いつも蒐集に忙しくて、そんなに勢いでなんでもかんでもは選べないのである。

そして数日後。まだ残っている。腹が立って来た。天下のヨーゼフ・ホフマンのものがなんで売れ残るのだろうか。私が買わないといけないか。勝手ながら、文化財保存的世界にしゃしゃり出る気持ちになって、購入の連絡を入れてしまった。コレクターさんに報告すると、「偉い偉い」と褒めてくださった。よく調べてから、次のカタログのメイン商品にしようかなと思う。