すみれのたより

ゲオルク・ヴォルフガング・クノールという植物学者がドイツにいる。代表作は『野草園芸宝典』という書物で、いわば薬草事典。1750年から1772年にかけて刊行された。とても大きく紙も上質。博物図譜の中の博物図譜だ。その中のキンセンカの図譜を在庫しており、データをとっていたら、思いがけないことに気づいた。キンセンカの別名はカレンデュラ。オレンジ色の花弁を持つ花だが、ドイツに行くとハーブティーによく入っていたりする。「健康」の象徴的な植物なのかなと感じていた。その「カレンデュラ」が「カレンダー」と語源が一緒だというのである。すごい。言葉がつながるとぐっと奥行きが増して楽しい。年月流れてもずっと自分も大切な人たちも変わらず健康でありますように。そんな願いを込めてこの図譜が誰かの室内に飾られるといいなと思った。

 

クノール キンセンカの図譜
クノール キンセンカの図譜

 

それにしても、植物図譜を見ていると心が安らぐ。最も思い入れの深い図譜は、ドイツのバシリウス・ベスラーの『アイヒシュテットの庭園』(1613年)だ。前述クノールの図譜も大きい(私の手元のものは余白が十分にある状態、つまり元の大きさからそれほどには切り取られていないと思われる状態で39.5×24.8センチ)が、こちらはさらに大きい。本の状態でページを繰るともう圧倒される、としか表現できない。巨大な図譜といえば、もちろんルドゥーテの百合図譜も忘れ難い。もうすぐ百合が咲く季節だ。今年も山野草の鉢は変わらず、ショウジョウバカマの桃色の花から始まり、その脇から百合の芽が例年と少し場所を変えて伸びてきた。別の鉢からは、死んだと思ったすみれも出てきた。昨年の秋、ある方からいただいたミルテも、緑の葉を覗かせている!そしてイカリソウ。毎年元気に新しい葉を芽吹かせ白い花を咲かせてくれる。今年こそ、ベランダをイカリソウでいっぱいにしたい。強い野草などでないと、過酷な夏は植物たちにとってあまりにも辛くなりそうなので…。(註)

 

ベスラー リネンの花などの図譜 大好きな図譜だ。 こちらの図譜は弊店のチラシに使っているものです。
ベスラー リネンの花などの図譜 大好きな図譜だ。
こちらの図譜は弊店のチラシに使っているものです。

 

昨年の初冬、蓜島亘さんと雑誌を創刊した。名前を「すみれのたより」と言う。出版は弊店髙橋麻帆書店から。創刊号には、本好きのたくさんの人たちが原稿を寄せてくださった。弊店の目録付きだ。未綴じの16ページ折り、いわばオクターヴォサイズで300部しか刷っていない。限定的に活版印刷のペラもはさんであったりする。計画してから2年以上もかかってしまったが、何とか出せた。次号も現在作成中である。ご興味を持ってくださる方は販売いたしますので、ご連絡をお待ちしております。

 

活版印刷のカード。
最近新しく尚榮堂さんに作っていただいた活版印刷のカード。
ゲーテのすみれの詩(モーツァルトの曲で有名)より。
「Ein Veilchen auf der Wiese standすみれが野に咲いていた」。
筆記体の活字、組めば、どの並びでもつながるなんて…びっくり。

 

(註)北陸のイカリソウの花は白い。私の育った京都では薄いピンクだった。子どもの頃山にこの花が咲いているのを見つけると、華やかな気持ちになったものだ。福井県かどこかの山にイカリソウのピンクと白の境界線があると聞いたことがある。いわば植物の国境線か。興味深いことだ。我が家のイカリソウがどこから来たのか忘れてしまったが、こちらに引っ越して来て、イカリソウが白なんだという驚きとともに、この花が我が家にやってきたことはたしか。

 

2025年4月13日