オイシイモノ紀行 四国編

雑魚をすりつぶし、薄い小判形にまとめて素揚げしたものです。「ざこ天」転じて「じゃこ天」。揚げたてにたらっと醤油をたらせば、そりゃあもう、「うまぁ~い!最高!」。口当たりがふっわふわ、しかし骨もすりつぶしているのでしっかりと実体がある。そして甘い香り。ビールをお供に「天国!」と、幾百万の食いしん坊が叫んだことでしょう。

 

風体も味わいも鹿児島のさつま揚げに似ていますが、真似っこじゃありません。歴とした当県西南部、宇和島周辺の郷土料理。漁師の女房が捨てる運命の雑魚を有効利用したのが始まりとも、また、仙台藩主伊達政宗長子、英宗がかかわっての練り物文化とも言われております。女房説から検証してみましょう。いつの時代にも知恵女房はいるものです。「捨てたらもったいないけんね」すりつぶして、焼いたり煮たり揚げたりは当然のこと。他方、伊達様説は、今から400余年さかのぼる1615年・元和元年のこと。政宗長子英宗が初代宇和島藩主に任ぜられた折、故郷仙台の蒲鉾作りのノウハウを持ち込んで練り物食をひろめたのが発端とも。これが400年の間に揚げものともなり名物じゃこ天となった説。

 

雑魚はホタルジャコ(現地名ハランボ)がメイン。ほかに、塩、調味料、でんぷん。練って、形づけて、油で揚げて出来上がり。現在は多くの店が独自の製造で販売していますから、聞いた話では、店の数だけ味があるといわれています。
県下をご旅行の際には、ぜひ、マーケットの練り物コーナーを覗いてみてください。あれこれ買って食べ比べをするのも一興かと。食べ方はシンプルが一番。オーブンで焼く、フライパンで焼く、油で揚げなおす、生を細切りにして玉ねぎやレタスと混ぜてサラダにするなどなど。町には、じゃこ天蕎麦、じゃこ天うどん、じゃこ天バーガーなどもあります。
色味がグレーがかった茶色なので、あれれ、これなのぉっ? と後ずさるかもしれませんが、見かけに負けてはいけません。勇気をもって試した方に口福が訪れましょう。

 

揚げ実演プロセス。実演コーナー。

 
じゃこ天
 

大本幸子(おおもと ゆきこ)

愛媛県松山市生まれ。中央公論社16年間勤務。後、編集事務所STUDIO OMT主宰。エディター& ライターとして、料理ジャンルの書籍・雑誌・PR誌制作にかかわる。ペンネーム大本幸之丞。
著作書籍に「おたずね申す、日本一」TBSブリタニカ、「泡盛百年古酒の夢」河出書房新社、「芋焼酎の人びと」世界文化社、「北島亭のフランス料理」日本放送協会、「簡単ではない」日本放送協会、「続簡単ではない」日本放送協会、「簡単だった!」日本放送協会など。「パスタ歳時記 片岡護」講談社 他、編集本など多数。

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