オイシイモノ紀行 四国編

はい、いらっしゃいませ。今回ご紹介は、松山人が愛してやまない蒸しパン「労研饅頭(ろうけんまんとう)」です。写真をご覧いただきましょうか。いびつで丸っこくって、つやっと光ってますでしょう? 小麦粉を練った生地を酵母で発酵させ、蒸しただけのつくりです。これ、直径10センチくらい。地元民は愛情を込めて「労研さん」と呼びます。
 

味つけ生地
 

さて、いかにも日常の蒸しパンにかくもの漢文調名はどうしたことか。なにかいわれがあるのか・・。ございます。昭和初期のこと。日本は不況の最中。松山においても、働きながら学ぶ夜学生の懐はすっからかん。助けることはできないかと関係者が模索したところ、岡山県・倉敷労働科学研究所所長の暉峻義等医学博士なる人物に到達。中国の饅頭(まんとう)を、織物工場の女工さんの主食代用品として蒸しパンに研究改良し、京阪神で販売して好評を得ているというのです。安くて栄養価高し。うん、これこれ。お願いして、教えていただきましょう。松山から倉敷へ修業におもむき技術取得。研究所の中国人技術者さん(今風にいえばブーランジェ)の手助けをお願いして完成し、夜学校で製造販売して資金としたのでした。可愛い姿でありますが、実は、こんなお話と高い志が詰まってるんですよ。その後この酵母は現在製造販売の「たけうち」に受けつがれ、80年間当時のままに作られています。
 

ご蒸したてがずらりと並ぶショウケース

ご蒸したてがずらりと並ぶショウケース。創業当時の復刻ロゴのケース入り。全種類 14個セット 冷凍1,728円(税込)。地方発送あり。 いらっしゃいませ。右端3代目ご主人竹内信司さんとお店のみなさん。白い三角巾と制服が昔からのスタイル。

 
白いのが基本形です。皮はパリッ中身はふんわり。ありやなしやほんのりの甘さが、原型である中国の花巻や饅頭を思いおこさせます。他県へ出た松山人は、この風合いが懐かしくてたまらないと言います。14種類のバリエーションがあります。白生地・練りこみ生地・あん入り・あんなし・お豆さんが入っていたり入ってなかったり。冷めたらオーブンで焼くか、電子レンジで温めましょう。残ったら冷凍okです。いわゆる湯気に包まれたあん饅や肉饅とは違います。あくまでもパンですから、私的には、人肌くらいのあたたかさを狙っていただければと思います。
 
あん入り
 
株式会社 たけうち 
 

大本幸子(おおもと ゆきこ)

愛媛県松山市生まれ。中央公論社16年間勤務。後、編集事務所STUDIO OMT主宰。エディター& ライターとして、料理ジャンルの書籍・雑誌・PR誌制作にかかわる。ペンネーム大本幸之丞。
著作書籍に「おたずね申す、日本一」TBSブリタニカ、「泡盛百年古酒の夢」河出書房新社、「芋焼酎の人びと」世界文化社、「北島亭のフランス料理」日本放送協会、「簡単ではない」日本放送協会、「続簡単ではない」日本放送協会、「簡単だった!」日本放送協会など。「パスタ歳時記 片岡護」講談社 他、編集本など多数。

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