オイシイモノ紀行 四国編

タルトと言えば、パイ生地の器に季節の果物やクリームを盛った洋菓子のことですよね。でもでも、松山では違うんです。当地で「おーい、タルト!」と言えば、百発百中、写真のようなカステラのあんこ巻きが出てきます。これ、松山の超有名郷土菓子。
 
タルト

 
しかし、ねえ、こいつ、最近はやりの和風ロールケーキじゃないか?と疑問を抱く方もいらっしゃいましょう。違います! どこが違うか。「類似のロールケーキはカステラの焼き目が外側に出ているが、タルトは焼き目を内側にして、あんを渦巻き状に入れてあるのが特徴」・・・と、『愛媛県百科大事典』(愛媛新聞社刊)にありました。検証しましょう。確かに。カステラのふわふわ側が表になっています。突然ですが、いただきましょう。口に入れると、カステラのふわり、次にあんこの口あたり、ほんのり柚子の香りが続いて、とてもとてもドラマティック。三種の重奏が、おいしいの~。
 

一六タルト
では、名菓の成り立ちをご紹介。なにをかくそう、時は江戸・長崎貿易時代にさかのぼり、場所は平戸。オランダやポルトガルの貿易船が頻繁に訪れています。1647年(正保4年)、ポルトガル船が入るというので、松山城主松平定行候が長崎探題というお役目を受けて平戸に出かけ、貿易の不正はないか、争いはないかというお仕事に従事。幸いトラブルなく終わり、ポルトガルからのお土産に持ち帰ったのがタルトの製法であったというのです。しかしてタルトは松山に定着。江戸幕府、藩主、長崎探題、ポルトガルがくんずほぐれつ、ドラマティックでしょ? 四国の田舎菓子ですけれど、履歴は結構ハイカラなんっす。が、しかし、松平候が最初に食べたのはジャム巻きであり、あんこを巻いたのは以降独自に考案したものらしいのですって。名物に諸説あり。明治の時代から商品化されて現在に至る。濃く淹れたお煎茶、もしくはお抹茶で、どうぞ。
 

クレジット
 

大本幸子(おおもと ゆきこ)

愛媛県松山市生まれ。中央公論社16年間勤務。後、編集事務所STUDIO OMT主宰。エディター& ライターとして、料理ジャンルの書籍・雑誌・PR誌制作にかかわる。ペンネーム大本幸之丞。
著作書籍に「おたずね申す、日本一」TBSブリタニカ、「泡盛百年古酒の夢」河出書房新社、「芋焼酎の人びと」世界文化社、「北島亭のフランス料理」日本放送協会、「簡単ではない」日本放送協会、「続簡単ではない」日本放送協会、「簡単だった!」日本放送協会など。「パスタ歳時記 片岡護」講談社 他、編集本など多数。

バックナンバー