なすさえあれば夏は幸せ。あ、あなたもそう？　しかし聞くところによると、一口になすといっても、村ごとに一品種と言われるほどたくさんの種類があるそうですよ。お宅のなすと私が暮す四国松山のものとは、味わいも姿かたちもだいぶん違っているかもしれませんね。当地のは「松山長なす」と申しまして長～いタイプです。それにしても、なぜこんなに種類が多いのでしょ。
 

Q　なす君、なす君。そもそも君はどこから来たの？
A　紀元前のインドから。日本へは、東南アジア→中国経由らしいね。日本でも奈良時代には、もう、栽培されてたんだよ。
 
Q　えっ、そんな時代から？
A　734年の正倉院文書や平城京の遺構で見つかった木簡に記録が残っていてね、その頃から全国へ行き渡って、土地土地で改良されてきたの。だから、人の生まれ故郷に一品種というくらい地域色が鮮明なんだ。
 
私愛食の「松山長なす」は「庄屋大長（しょうやおおなが）」という品種で、長さ40センチくらい。1メートルくらいのものもあります。水分が多いので、火を加えるととろとろになって舌触りはクリームの如しです。ふんわりソフトで甘いのです。そう、煮ても、焼いても、揚げてもです。どう調理してもこのテイストは抜群です。でありますが、昔から言われることには「松山長なすの値打ちは焼きなすよ」なんです。なので、松山人は、長なす焼きなすが好み。
 
東京・西五反田のフレンチレストラン「ヌキテパ」田辺年男料理長指導による[美味焼きなすのつくり方と食べ方]カンカンにおこした火に転がして、皮をぼうぼう燃やして焼いてください。炭のようにぼそぼそになったら、焼け上がり。水につけないで熱いまま皮をむきます。ここが肝心。余分な水分を加えてはいけません。ごんごん湯気が立つのを即刻賞味いたします。塩とタイム（ハーブ）をぱらぱらっとふって、オリーブオイルをまわしかけます。ナイフとフォーク、冷やした辛口白ワインで召し上がってください。ぎえ～、なんやこれ～。長なす・フランスの味わいっす。20年ほども前に教わりました。以来、私この方法一筋です。
 

2本入り396円。
SUPER ABC上一万店6月調べ
電話:089・931・1101

愛媛県松山市生まれ。中央公論社１６年間勤務。後、編集事務所ＳＴＵＤＩＯ ＯＭＴ主宰。エディター＆ ライターとして、料理ジャンルの書籍・雑誌・ＰＲ誌制作にかかわる。ペンネーム大本幸之丞。
著作書籍に「おたずね申す、日本一」ＴＢＳブリタニカ、「泡盛百年古酒の夢」河出書房新社、「芋焼酎の人びと」世界文化社、「北島亭のフランス料理」日本放送協会、「簡単ではない」日本放送協会、「続簡単ではない」日本放送協会、「簡単だった！」日本放送協会など。「パスタ歳時記　片岡護」講談社 他、編集本など多数。