オイシイモノ紀行 四国編

お暑うございます。今回は盛夏の珍味をご紹介。なまりぶし。生節とも生利節とも生鰹節とも書きます。半生の鰹節です。獲りたての鰹を節にとって、ゆでたり蒸したり、いずれも燻しを加えない段階で生乾きにしたもの。指で押すと、つきたてのお餅のようにふにゅっとしています。やわらかですから、包丁で切れます。お味は鰹節のソフト版といいましょうか、おだやかにうまみが広がって、歯にしこっとあたるのが特徴。当県南部は太平洋に面して高知県に劣らず鰹漁が盛ん。格別の生節がございます。

 

生節

 

鰹は昔から食卓の常連であったようで、縄文時代の台所の遺跡から骨が出てるんですって。奈良・平安時代のころは刺身や酢の物の記録あり、鰹節が世に出たのが室町末期。鰹節ほどの技術を要しない生節は、室町以前から保存用として用いられていたのではないかしら・・とは、私の勝手な想像ですけれど。

 

生節は硬い鰹節と同じく出しのかたまりなわけですから、ただ煮るだけ焼くだけ蒸すだけで逸品が出来上がる便利食材。江戸時代には多く使われていたみたいです。江戸料理研究の第一人者、東京・大塚「なべ家」のご主人、福田浩さんに江戸料理「なまり江戸煮」を教えていただきました。生節をほぐして、ごとごとお酒と醤油で煮るだけです。江戸っ子らしく歯切れよく、明快!

 

①生節1本(700g)をあらくほぐして
鍋に入れる。日本酒3カップを入れ、醤油をひたひたより少し多めに入れる。コトコトと30分くらい煮る。途中でしし唐を好みの量入れ、しんなりしたら出す。
②煮あがり際にくるっと醤油をまわし入れ、汁気を吸わせ仕あげる。

 

なまり江戸煮

 

福田ご主人の後でおそれ多いことながら、私のおすすめの食べ方をひとつ。皮むきで1ミリほどの厚さで細く削ったのを熱々のごはんにたっぷりのせます。醤油をぽとりと落とします。ごはんの熱で蒸らされて香りもお味も濃厚。ふんわりの口当たりで、ご馳走。ここに古漬けでもちょこっと混ぜれば、絶叫猫ごはんでございます。

 

生節は夏の季語。こんな一句見つけました。
藁苞に背腹見えけり生り節 鬼城
鰹の皮の模様は商品価値が高いので、生節には皮を残して仕上げることがあるのだそうです。鬼城先生は包んだ藁苞の隙間から縞目の背模様が見えたのでしょうか・・?

 

深浦坂井水産 愛媛県南宇和郡愛南町
伊達武士 718円
松山空港スカイショップ
電話:089-972-5610
大本幸子(おおもと ゆきこ)

愛媛県松山市生まれ。中央公論社16年間勤務。後、編集事務所STUDIO OMT主宰。エディター& ライターとして、料理ジャンルの書籍・雑誌・PR誌制作にかかわる。ペンネーム大本幸之丞。
著作書籍に「おたずね申す、日本一」TBSブリタニカ、「泡盛百年古酒の夢」河出書房新社、「芋焼酎の人びと」世界文化社、「北島亭のフランス料理」日本放送協会、「簡単ではない」日本放送協会、「続簡単ではない」日本放送協会、「簡単だった!」日本放送協会など。「パスタ歳時記 片岡護」講談社 他、編集本など多数。

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