オイシイモノ紀行 四国編

当県は茨城県、熊本県に次いで、栗の収穫量日本第3位。この季節には大きくてつやつやのが出回ります。栗って、こちんとかたくて頭がとがって勢いのよいこと。『猿蟹合戦』でもパチパチはぜて活躍しました。かち栗という名の小粒の栗は、縁起をかついで戦国時代には戦士の携行食。栄養価が高いことを心得てのことだったでしょうけれど。
 
丸あるくてコロコロ。主成分はでんぷんです。芋類が地中のでんぷんなら、栗は木の上のでんぷん。日本では一種の贅沢品のイメージがありますが、ヨーロッパの山岳地帯ではじゃがいもがなくなる季節数か月間の代替食材として使うのだそうです。彼の地で暮らしていた人が、栗の顔を見ると、嬉しいよりも皮剥きを思い出してねと話していました。お疲れ様でしたね。
 
お料理に使うならまずは甘露煮。シロップでことことと形をくずさず煮含めるのは大仕事ですが、手間をかける分、甘くて、ほっくりてだれもが大好き。うちで買う八百屋さんの栗で作る甘露煮は、ねっとり甘くてそれはそれは素敵です。おかずなら鶏との炊き合わせ。ヨーロッパ料理にも「鶏とマロンの煮込み」なんてのがあります。でも日本の栗は粘り系、ヨーロッパはさっくり系なので、同じ煮込みでもお味も口当たりも違います。が、鶏と栗は東西並んで仲良し。お菓子界での活躍は言うまでもありません。栗饅頭に金団、モンブラン、マロングラッセ等々。おなじみ天津甘栗。中国の栗は小粒で皮が剥きやすくしかも濃厚なので、煎っただけであれだけの品になります。日本の栗では及びません。
 
「甘栗むいちゃいました」で炊いた栗ごはん。簡単。忘れてならない栗ごはん。明治14年生まれの食学者、本山萩舟著『飲食事典』(平凡社刊)に栗ごはんの炊き方を発見しました。当時のことですから、薪で炊くごはんです。以下、写しです。渋皮を去った栗は一晩米の磨汁につけて渋を抜き、米一升に三合くらいの割で炊込む。水加減はほぼ普通でよく別に酒少々、塩一つかみを加え、米と栗とをよくかきまぜて上に煮出昆布を適宜に切ってのせ、ふき上って水の引加減に手早く昆布を引出して、あと十分に蒸すと淡白で栗の香も高い。荻舟先生の栗ごはん。この通りにつくりました。電気釜ですけれど。おいしゅうございました。昔、西川勢津子先生に教わった超手抜き栗ごはんもご披露。水加減をしたお米にちょっとだけ塩味をして、市販の「甘栗むいちゃいました」天津甘栗を入れて炊きます。完了。
 

栗1kg 1,200円 9月下旬の値段
(有)むらかみ調べ
電話:089・931・3967
大本幸子(おおもと ゆきこ)

愛媛県松山市生まれ。中央公論社16年間勤務。後、編集事務所STUDIO OMT主宰。エディター& ライターとして、料理ジャンルの書籍・雑誌・PR誌制作にかかわる。ペンネーム大本幸之丞。
著作書籍に「おたずね申す、日本一」TBSブリタニカ、「泡盛百年古酒の夢」河出書房新社、「芋焼酎の人びと」世界文化社、「北島亭のフランス料理」日本放送協会、「簡単ではない」日本放送協会、「続簡単ではない」日本放送協会、「簡単だった!」日本放送協会など。「パスタ歳時記 片岡護」講談社 他、編集本など多数。

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