前回はテルミニ駅前、マッシモ宮に収蔵されているモザイクをご紹介しました。今回は同じローマ市内でも別の国、ヴァチカン市国からご紹介したいと思います。
ヴァチカンとモザイク。
あまり知られていませんが、サン・ピエトロ大聖堂内の壁画が全てモザイクだったり、ヴァチカン市国の主要産業としてモザイクが挙げられるなど、ヴァチカンとモザイクは切っても切れない関係。その中でもヴァチカン美術館に収蔵されている、歴代教皇のモザイクコレクションは特筆すべき素晴らしさです。
一言でヴァチカン美術館といっても、実は複数の美術館やモニュメントの集合体。古代彫刻美術館から、地図のギャラリー、エジプト関係、アジア関係、現代キリスト教美術、絵画館、それにシスティーナ礼拝堂などなど。イタリア語ではMusei Vaticaniと複数形で呼ばれているので、日本語でもヴァチカン美術館群とした方が良いかもしれませんね。
モザイクはこれらの美術館、モニュメントの至る所にあります。新旧問わず作品として壁面に飾られている場合は良いのですが、建物の一部として、大理石モザイクの本来の役目通り床を飾っている場合は気づかず素通りなんてことも。もともと、世界最大級の美術館であるヴァチカン美術館を全てくまなく見て回るなんて、いくら時間があっても足りません。ですので今回は、ヴァチカン美術館群の中の一つ、ピオ・クレメンティーノ美術館(Museo Pio-Clementino)で見る事が出来るモザイクにクローズアップしてみたいと思います。
ピオ・クレメンティーノ美術館といえば、なんといっても古代彫刻。そこかしこに教科書レベルの彫刻が、もうてんこもり状態。


しかし、そんな彫刻たちの後ろに下に、素晴らしいモザイク達が空間を飾っています。ピオ・クレメンティーノ美術館の中でも特にモザイクが多いゾーン、Sala degli Animali、「動物の間」を見てみましょう。



白黒の床モザイク。唐草模様の間に、キュートな鳥がちらほら配置されいています。18世紀に発見された、2世紀中盤のモザイクです。目の表現が愛らしい!
建物の入り口で、明るい場所から室内へ入って目が慣れないせいか、モザイクの上をどんどん人が通過して、じっくり足を止める人は少ないです。ヴァチカン美術館全体に言える事かも知れませんが、自分のアンテナを信じて、人の流れから少し外れてみるのがお勧めです。
次は視線を上げてみましょう。「動物の間」というだけあって、鹿や犬など、技巧を凝らした素晴らしい彫刻が並びます。彫刻に目を奪われがちですが、その後ろにも実はモザイク。


左の作品をご紹介しましょう。紀元180年から200年に作られたモザイク。たった43センチ四方の大きさなのに、猫の毛並みやフルーツの立体感など、すさまじいテッセラの数で表現されています。これだけのグラデーションを作るには相当な色数が必要。古代世界でこれだけの材料を集める財力...凄いですね。
さて、部屋の中心を見てみましょう。木製の手すりで囲われた大きな床モザイクがあります。紀元350年頃に作られたもの。新鮮そうなお魚や山盛りフルーツなどなど。




現在でもイノシシ肉とキノコは秋の楽しみから外せないイタリア。2000年の時をぴょんと飛び越えちゃいますね。
さて、次の部屋も見てみましょう。Sala Rotonda、「円形の間」へ。直径13メートルの一枚岩でできた巨大な円形の水盤が中央にある部屋です。その水盤の下がTerme di Otricoliで18世紀に発掘された、2世紀中盤の円形モザイクです。


だまし絵的文様や、優雅な植物柄。



何よりそんなモザイクを踏める楽しさ。ローマ貴族気分を味わえます。彫刻が有名な部屋なのですが、下を向きながらついつい何周か歩いてしまいますね。
さて隣の「ギリシャ十字の間」へ移動しましょう。こちらにはローマ郊外、Villa della Rufinellaで発見されたモザイク。ギリシャ神話の女神、アテナの胸像が中心にあり、四方を男性像が支えています。
あっさりとした筋肉の表現もさることながら、何とも言えないこの表情。想像をかき立てます。




階段を上って「燭台のギャラリー」へ移動しましょう。ここは床ではなく、壁面に素晴らしいモザイクがあります。ただ、ちょっと見にくい。何故かと言いますと...
スペースは沢山あるのに、なぜ真ん前に...でもまあ横から覗きましょう。2世紀中盤に作られた、食べ物モザイクです。


白黒のぐるりと、中央の色彩豊かな食材とのコントラストが美しい作品。鳥や魚のグラデーションも見事なのですが、やはりアスパラガスの束に目が行きます。なんて美味しそう...確実に新鮮ですね。
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いかがでしたか?今回ご紹介したモザイク達は、全体のほんの一部。この何倍も何十倍もモザイクだらけなのがヴァチカン美術館です。本当にいたる所にモザイクがあるのです。例えば、閉じられた鉄格子の向こう側。


実はとても有名なモザイク。古代ローマの別荘地、ティボリのVilla Adrianaで発見された仮面のモザイクです。

右の写真は、お土産物売り場の天井近く。ポスターや絵はがきの上にさりげなく飾られているのですが、2世紀終わりから3世紀に作られた演劇のシーンのモザイク達。
超有名な絵画作品の部屋の床もモザイクだったり。



素晴らしい収蔵品だらけのヴァチカン美術館。全部を見ようと頑張ると、圧倒されてへとへとになることも。思い切って、宝探しのようにモザイクに注目して巡ってみるのも、もしかしたらヴァチカン美術館を楽しむ良い方法かもしれませんね。