「教室ではどんなものを作るのですか?」
良く聞かれますね。今日も聞かれました。私は、欲しいモザイクを作ってもらう事にしています。

もちろん最初から、これこれこういうモザイクが欲しいです、とはっきりと言える方は少ないです。スタートは、なんとなくモザイクが気になるから、石が好きだからやってみよう、という方がほとんど。ですから最初に作るモザイクは、テッセラ作りの練習を兼ねたシンプルな幾何学模様。
いろいろなモザイク遺跡の写真や資料をご紹介していくうちに、そして練習作品を少しずつ作っていくうちに、横から見ている私も、生徒さんご自身も、どんなモザイクが好きなのかがだんだんと分かってくるのです。例えばHさんは優雅で繊細なアンダメント(石の流れ)がお好きなのだな、とか、Iさんは生き生きとした植物モザイクが作りたいのかな、など。

オリジナルはチュニジア
何より嬉しいのが、モザイク遺跡の資料をお見せしている時に、「これ!これが作りたいです!」と仰ってくださること。そういう、一種の恋のような状態から作り始めたモザイクは格別です。
オリジナルがあるモザイクを作る事をriproduzione(リプロドゥツィオーネ)と言うのですが(これに関しては次回!)、自分の手でもう一度そのモザイクを生み出せる、そしてそれを自分の手元に置ける、というのはモザイク制作の醍醐味。

オリジナルはローマ

Uさんのプットーは右中段に居ます。
Uさんは、いつの日か会いに行くそうです
恋に落ちたモザイク遺跡のモザイクを手元に置きたい。だから作る。とても自然な欲求だと思いませんか?一つ一つのテッセラを割り出し、ならべていくという根気の必要な作業を支えるものが、この欲求。それを私はモザイク欲と呼んでいます。

Nさんの大切なお嬢さんです
もちろん、見本が無くても良いんです。自分で最初から作れば良い。それでもやっぱり欲しいモザイクを作っていただきたいので、思い入れのあるモチーフで。大切なペット、忘れられない旅先の景色、実家の壁紙の模様...きっと素敵なモザイクになります。
1000年前、2000年前のモザイク遺跡が残っている事からも分かるように、モザイクは長く残ります。それは、素材である大理石やズマルト(モザイク用ガラス)が崩れない限り色褪せないから。ペットの姿や、思い出の景色といった思い入れのあるモチーフを、永遠の絵画とも呼ばれるモザイクに変換する事は、出来上がった作品はもちろん、その作業や時間自体が特別なものになると思います。
大切なものを残したい。自分の手で、時間を込めて形にしたい。だからモザイクを作る。これもまたモザイク欲。生徒さんには、どんどん欲張りになって、どんどん素敵なモザイクを生み出して欲しいですね。
最後に私のモザイク欲が燃え上がるモチーフの一つをご紹介いたします。

お土産でいただいたNutellaキーホルーダーを実寸大で。
一番ちっちゃいテッセラは1mm角
慢性的に「UMAMI」成分が足りなかった貧乏イタリア時代。 支えてくれたのは、このチョコクリーム、Nutellaでした。 Nutellaが無かったら果たしてどうなっていたのか。。。想像もつきません。
ちなみにモザイクを学んだラヴェンナの工房で、遺跡モザイク以外で最初に作ったメモリアルな一作も、Nutella。 (モザイコカンポHP 作品コーナー参照 https://mosaicocampo.com/creation.html) 、、、それは食欲では?いえいえ本能に直結した、これぞ「モザイク欲」です!