vol.12 ドイツに学ぶ

今回は海外の森林のお話しです。違法伐採や開拓など、世界では森林は減少傾向にありますが、持続可能な優れた林業を行っている地域もあります。その一つがドイツです。数年前にドイツの林業視察ツアーに参加して見聞してきたことをもとに、ドイツと日本の林業の違いについてお話ししたいと思います。 

 

日本の森林率(国土面積に対する森林面積の割合)は67%(photo01)ですが、ドイツの森林率は30%(photo02)しかありません。それから、里山や原生林などもある日本の森林とは異なり、ドイツは全て木材生産のための森林で、面積にすると約1千万haです。日本の木材生産林(人工林)も面積は約1千万haなので、木材生産のための森林面積は、ドイツと日本はほぼ同じということになります。
しかし、同じ面積の森林から、ドイツは日本の約5倍の木材を生産しています。そして持続可能な林業も成立しています。何が違うのでしょうか?

 

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林業の現場では、「ドイツは北海道のような緩やかな地形で重機も入り易いが、日本は急峻な山が多く木材を伐り出すのがたいへん」と良く言われています。行ってみたら確かにその通りで、一部急峻な山もありましたが、大部分は緩やかな地形の森でした。そこにハーベスタ?(photo03)、フォワーダ?(photo04)と呼ばれる2台の重機が入り、予め注文のサイズがインプットされた機械よって、木材を次々に伐り出せるのです。特にびっくりしたのは21mトレーラーというドイツの基準のトラックが、森の隅々まで入れるような林道がしっかりと整備され、効率よく木材を運び出せるようになっていたことです(photo05、06)

 

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また、作業の合理化だけではなく、ドイツには「植林」がありませんでした。ドイツは緯度も高く寒いため、日本より植生がかなり貧困で、森林の樹種はトウヒ、ブナ、モミが主でしたが、このトウヒ(日本ではホワイトウッドと呼ばれています)は、森林の手入れを適切にしておくと、次の芽が勝手に生えてくるそうで(天然更新)、日本のように植林が必要とされていませんでした(photo07、08)
日本の林業でも機械化や合理化が図られつつありますが、環境的な障害も少なく、作業も合理化されているドイツには容易には勝てない、と思ってしまいました。

 

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物理的なあれこれも重要ですが、特に学ぶべきと思ったのは、森林行政の仕組みです。ドイツには森林官と呼ばれる役人がいます(photo09?11)。森林を管理する役人は日本にもいますが、やっていることがまるで違います。約2千haの森林毎に1人配置され、その地域で森林整備について指導、助言を行います。彼らは専門的な教育を受けてきたスペシャリストで、教育システムも日本とはだいぶ異なっています。家族共々地域の一員として地域に溶け込み、原則定年まで同じ場所で働きます。個人所有の森林に対する権限も与えられていて、木材を販売する際の相手企業との価格交渉等も行うそうです。派遣された地域で信頼関係を築くのには少なくとも5年かかるそうですが、地域で頼りにされるあこがれの職業にもなっていました。ツアーの際には3人の森林官にお会いしましたが、みなさん森林整備の考え方も異なり、失敗することも多いが、自らで考えて色々なことにチャレンジしているという感じでした。

 

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日本ではどちらかというと法律や制度、規程やマニュアルを重要視し、誰がやっても結果が同じという仕組みが多いと思います。林業に限った話ではないですが、制度やマニュアルはほどほどにして、同時に様々な課題に立ち向かえる人材の育成と活躍できる仕組みづくりが大切ですよね。「ドイツの森林がここまで来るのには第一次対戦以降200年かかったから、日本はまだまだこれからだ」という森林官の言葉が深く印象に残っていますが、目先のことではなく将来を見据えて、人材育成と活躍できる仕組み、というソフトの部分をもっと考えていかなければならないと強く思いました。色々なところで叫ばれている、地方自治、縦割行政の是正、他分野との連携、問題意識を育成できる教育、といったところに、やはりヒントがあるように思っています。

 

※より詳しい見聞録はこちらをご参照下さい
http://woodmiles.net/cgi-2008/cgi-event/gallery.cgi?no=35

 

 

 

 

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