vol.11 町の時間と山の時間

皆さんお忙しいですか?日本人は世界的にも忙しい国民と言われますよね。一説には、国の人口密度に比例しているとか。仕事に付き合い、家事に子育て、趣味に学業など、これから家を建てよう、家を買おうと思っている世代は特に忙しく、そんな中で家が欲しいと思ったら、1日も早く欲しいですよね。このようなニーズに答えているのが建売住宅だったり、注文したらすぐに建つメーカー住宅だったりする訳です。家づくりに限らずあらゆるものが次々に便利になっていますが、結果として私たちの日々の暮らしの時間がどんどん早くなっている気がしませんか?

 

一方、山では1本の木材が育つまでに少なくとも数十年かかる、という時間が流れています。中には樹齢何百年という樹木もあります(photo 01,02)。それでも私たちは、この圧倒的に異なる山の時間を、あの手この手で町の時間に合わせようと努力しています。例えば、木造住宅の実務において時間が特に問題になるのが木材の乾燥です。伐ったばかりの丸太は半分以上水分なので、これを乾かさないと木材としては使えません。昔は木材が乾くまで1年くらい寝かせてから使っていました(photo 03,04)。でも、家を頼んでからそんなに待てませんよね。今は乾燥庫に数日間入れると使えるようになる人工乾燥というのが主流です(photo 05)。その後、木材を加工する際も、昔は大工さんの手仕事で行われていましたが、今はプレカットという工場の機械で早く大量にできるようになっています(photo 06)。

photo01:植林後80?90年の杉林
photo01:植林後80?90年の杉林
photo02:樹齢千年超のヒノキ林
photo02:樹齢千年超のヒノキ林
photo03:山で寝かせてある程度乾燥させる葉枯らし乾燥
photo03:山で寝かせてある程度乾燥させる葉枯らし乾燥
photo04:半年くらい置いておく天然乾燥
photo04:半年くらい置いておく天然乾燥
photo05:強制的に数日間で乾燥させる人工乾燥
photo05:強制的に数日間で乾燥させる人工乾燥
photo06:木材を加工するプレカット工場
photo06:木材を加工するプレカット工場
 

時間を早めることはとても便利になりますが、デメリットもたくさんあると思います。一つは、よりたくさんのエネルギーが必要となります(エネルギーを消費するスピードが速まるといったほうが正しいかもしれませんが)。木材の乾燥の例で言うと、乾燥庫の温度を上げるために燃やされる重油や軽油、プレカット工場の電力などが新たに必要になりました。もう一つ、作る時間が早ければ早いほど、捨てられる時間も早くなるような気がします。すぐできる物はすぐ捨てられませんか?住宅業界では今、国をあげて住宅の長寿命化のための色々な政策が行われていますが、作るのは早く、でも長持ちに、それってちょっと無理なのでは、とも思ってしまいます。

 

私自身、ほとんどの時間が仕事に追われ、家は寝るだけといった生活ですので、現実的にはなかなか難しいのですが、身の回りの物をゆっくり作ってみる、時間をかけて手に入れてみる、といったところから、暮らしの時間を少しでもゆっくりにしていけないかと思っている今日この頃です。

 

 

 

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