vol.9 木材を燃やす

大気や水を浄化したり、雨水を蓄えたり、多様な生物を育んだり、人間の余暇を提供したり。私たちは日本の国土の67%もある森林から実にたくさんの恩恵を受けていますが、そもそも森林とは誰のものなのでしょうか?

 

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森林にも土地や建物と同じように所有者がいます。国が所有する国有林、自治体や地域が所有する公有林、企業や個人が所有する私有林など、所有者によってその呼ばれ方も様々です。国有林以外の森林はまとめて民有林とも呼ばれます。面積では、およそ国有林が3割、民有林が7割という状況です。恩恵を受ける立場の私たちにとって、所有者が誰かということはあまり問題ではないように思われますが、森林整備の現場では、この所有者が誰かということが大きな障壁になっています。

 

私の知人も地域の森林整備に携わっています。林業が成り立たず管理を放棄してしまった森林の間伐が主な仕事ですが、森林を整備する以上、当然のことながら所有者の許可が必要です。大地主さんの山であればその人に許可をもらえば事足りますが、この部分はAさん、こちらはBさんという感じで、1つの山に対して所有者がたくさんいる状況が一般的です。間伐は荒廃した森林を再生するために必要ですが、一部だけを間伐しても効果は少なく山全体で進めることも大切です。そのためには所有者全員の了承を取り付けなければなりません。

 

知人の森林整備の現場で、間伐作業を予定していた谷合のエリアに、実に100人以上の所有者がいるという地図を見せてもらいました。地図には幾重にも境界が書き込まれ、小規模所有者が密集している部分は線や文字で真っ黒です。これはたいへんです。途方に暮れる思いでしたが、さらに絶望的だったのは、所有者が誰だか分からない部分もたくさんあることです。名前が分かったとしてもそれは先々代の方で、その後相続した子供たちは都会にいて山を所有していることも知らない、という例も少なくないそうです。

 

「また、山の所有は地図と帳簿からなる森林簿で管理されていますが、市街地のように境界が明確ではありません。谷間のあたりとか、大木が立っているところとか。何かの目印で決められているのですが、先代や先々代が決めた森林簿自体が古く、山の状況も時間と共に変化しています。境界を覚えているという集落の長老を連れて山に入り、確かこの先に大きな岩があるのでそこが境界だと言われたが、着いたら周りは岩だらけで困ってしまった、といった話も聞きました。

 

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 このような状況をいかにして打開していくのかも、森林整備の大きな課題です。測量技術なども進歩してきていますが、例えば建築業界では、建物は個人の財産であると同時に町をつくる公共の財産である、という話がよく出てきます。森林こそ公共の財産であり皆で共有していく道を模索すべきものではないでしょうか。現実的には簡単な話しではないですが、所有者同士が合意し管理を共有できるよう努力されている方々もいます。個人の財産と共有の財産。森林に限らず私たちの身近なところでも、考えてみるべきものがたくさんありそうです。

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