『こいのぼり』(英題:KOINOBORI)2014年2月製作 
『こいのぼり』(英題:KOINOBORI)2014年2月製作

5月5日はこどもの日。端午の節句とも言われます。今ではあまり見かけることがなくなったのですが、僕がまだ小さい頃(昭和の終わり頃)までは、あちらこちらに大きなこいのぼりが飾られていたのを記憶しています。風にたなびくこいのぼり。空に大きな魚が出現する風景は、当時の僕にとっては一つのアトラクションのようなもので、「風よ、吹け吹け、もっと吹け」と心の中で念じながら、その雄々しい姿に心を躍らせていたのを憶えています。

でも、大人になるに連れて、年々日本の住宅事情も変化し、この頃ではあまりこいのぼりを見ることもなくなりました。あれだけ大きなものを掲げようと思うと広い庭が必要で、マンションが普及した現在では、飾りたくても飾れないことが多いのです。それでもやっぱり、こいのぼりで端午の節句をお祝いしたい。そんな要望もあって「こいのぼり」モビールの製作に着手し始めました。モビールならお部屋の中でも飾ることができるし(固定されたオブジェではないので)、風が動きに作用するところも原型に近いと思ったのです。

製作の上で注意したのは、見た目のデザインでした。どこまでデフォルメすればいいのか。これは毎回悩むところなのですが、こいのぼりに関しては特に注意しました。というのも、僕が子どもの頃に見たオリジナルのこいのぼりのニュアンスを、できるだけ損ないたくないと思ったからです。かといってそれをそのまま描けば、とても渋いものになり、可愛さはあまり出なくなります。日本の伝統的な「渋さ」を残しつつ、モビールの持つモダンな「可愛さ」は生かしたい。古いものと新しいものが混合された良さを出していけたらと思うのです。下絵となるイラストは、何度も描き直しました。全体的なバランスはもちろん、うろこの数や目の形など「可愛すぎないか?」「渋すぎないか?」と、細かいところまで自問しながら、どちらかに偏りすぎないように心がけました。例えば、うろこの数は、もっと減らした方がスッキリして可愛くなるのですが、ちょっと多めにしておこう、とか。目も、極端にデフォルメするよりは、やっぱりあの真ん丸の感じは残したい、とか。こうしてできあがった「こいのぼり」のモビール。外に浮かぶ従来のものと見比べて、いかがでしょうか?

Drawings for "sketches of Japanese manners and customs"vol. 1より(同志社大学図書館所蔵)
図1:Drawings for "sketches of Japanese manners and customs"vol. 1より(同志社大学図書館所蔵)

元々こいのぼりは江戸時代頃から広まったそうですが、こちらの画像(図1)からも分かるように、当初は一番上のお父さん鯉しかなく、形もいまのものとは微妙に違っていたみたいですね。それが昭和には、皆が知っているあの形に定着する。だから、これからはモビールのこいのぼりが主流になっても良いのかな、そうなって欲しいなあ、と思います。こいのぼりモビールを見た平成の子どもたちが、また次の世代の新しいこいのぼりを作っていくことを願っています。