『ごんぎつね』(英題:Gon, the little fox)2012年8月製作 
『ごんぎつね』(英題:Gon, the little fox)
 2012年8月製作

童話『ごんぎつね』は、とても有名なお話ですが、その作者の新美南吉の生まれ故郷が、名古屋からほど近い、愛知県半田市にあることはあまり知られていないように思います。半田市は、まだ自然がたくさん残っているのどかな町で、新美南吉の足跡をたどる記念館があり、書物はもちろん、功績や生い立ちなど、関連する企画展が次々と催されています。今回のモビールは、その新美南吉記念館と関わりのある半田市観光協会から依頼を受けて作りました。

じつは、今回のモビールは僕は絵を描きませんでした。同じく名古屋で活動をしているイラストレーターのワキタヨシコさんに絵を描いていただくという試みで、どういうモビールができあがるか、始めからとっても楽しみな企画でした。『ごんぎつね』を読んだことがある方はご存知と思いますが、朗らかというよりは、読後にずっしりと感じるものがあり、とても悲しいお話です。もし、僕が絵を描いていたら、内容に忠実になるように結構重いトーンにしていたかもしれません。ところが、ワキタさんから最初にいただいたラフ案は、僕のイメージとは全然違い、とても朗らかで可愛く、さらに渋いトーンまで残している素敵なモノでした。別の方に絵を描いていただく企画はこれが初めてでしたが、とても刺激的なやりとりとなりました。

型染めで使用する型 / 型を元に彩色していきます
型染めで使用する型 / 型を元に彩色していきます

彼女の描くイラストはやや独特で、絵の具によるペイントではなく、「型染め」という手法で描かれています。「型染め」とは、染めの手法の一つで、最初に型を作る必要があります。イメージができていないと、肝心の型を作ることができないので、きっと最初にしっかりと完成形が頭にあったのでしょう。配色の仕方も、僕とは全然違っています。淡い色が多く、それでいてきちんとメリハリがついているから不思議です。それまで、僕は派手目な配色を好んで使っていたので、ワキタさんの配色の仕方はとても勉強になりました。モビールのバランスなど、細かい作りだけを僕が調整して、ラフ案からほとんど変更することなく、そのまま完成となりました。こうして、初めてのコラボレーションモビールが誕生したのです。

半田市の駅では、ワキタさんが型染めで製作した巨大な絵がお出迎え
半田市の駅では、ワキタさんが型染めで製作した
巨大な絵がお出迎え

僕がもし 一人で「ごんぎつね」をモビールにしていたら、どんなものができていたのかな? と、夢想してみるのですが、こういうときはほとんど良いアイデアが浮かびません。コラボレーションの良いところは、自分だけでは絶対に気づかなかったことや、思いつかなかったことが、相手からぽっと差し出していただけるところ。それが刺激となり、お互いに高め合うことができるのです。

『ごんぎつね』の舞台となった、半田市の矢勝川周辺は、これから黄色くて可愛い菜の花が咲き乱れる頃。童話と、モビールと、舞台となった土地とを見比べに、ぜひ一度訪ねてみてくださいね。