『さいごのぞう』2014年3月製作
 
『さいごのぞう』2014年3月製作

ある絵本をテーマにしたモビールを製作することになりました。以前から親交のあるアーティストの井上奈奈さんが絵本を出版されるということで、それに合わせてモビールを作りませんか? とお声がけいただいたのです。絵本の題名は『さいごのぞう』。一匹のゾウが主人公の物語です。

絵本をテーマにモビールを製作するのは初の試みで、とても楽しみな企画でした。兎にも角にも、お贈りいただいた絵本を読むところからスタート。以前から、井上さんの絵画は何度も観たことがあり、その端麗で甘美な世界観のファンでもあった僕は、ゆっくりと味わうようにページをめくり、何度も何度も読み返しました。元々、この絵本は動物愛護の気持ちから、実際に商業の犠牲となり殺戮され続けているゾウについてのお話として描かれています。地球上に最後の一匹となったゾウが、居なくなるまでのお話。決して明るく楽しいトーンではありませんが、だからこそモビールにしてみたら、どんなものができ上がるか楽しみだったのです。

装丁も素敵な絵本『さいごのぞう』
 
装丁も素敵な絵本『さいごのぞう』

いつもは、できるだけ可愛くしようとか、お部屋に飾った時に楽しい印象の方がいいなと思って製作しているのですが、今回は自由に作ろうと思いました。絵本がすでに井上さんの確固たる世界観で作られているので、それに触れて受けとったモノを、純粋にモビールに投影するのが一番良い方法だと思ったのです。アイデアは、絵本を読み終えたあとすぐに出てきました。一匹のゾウが朝から夜まで、陸から海まで、春夏秋冬を巡るモビール。永遠に永遠に、くるくると回ります。視点を変えると4つの世界が見えるような構造になっています。最後のゾウが世界に留まり続けるという意味で、絵本の中の物語ともマッチしていて、とても良いコラボレーションになりました。

『さいごのぞう』

惜しむらくは、自由に作りすぎて複雑な構造になってしまったため、あまり量産ができず、未だに正式発売はできていません。いつか量産化できたらと思うのですが、このモビールは密かにひっそりと世界に数個しかない、というのもなんだかこの物語と合っていて良いなぁとも思います。