『少女の見た夢』(英題:Predawn)2014年8月製作 

『少女の見た夢』(英題:Predawn)2014年8月製作

モビール作りを始めたばかりの頃は、浮かんで来たイメージをそのまま形にしていました。誰かに依頼されて製作しているわけではないので、自分の好きなように作っていたのです。でもある時、お客さんに言われて気づいたことがあります。

「女の子向けのものがないわね。」

そう、僕は男なので、浮かんでくるアイデアをそのまま形にすると、どうしても男の子目線になってしまいがちなのです。それ以来、女の子向けのモビールを作るための試行錯誤が始まりました。まず浮かんだのが「ネコ」のモビール。とてもステレオタイプかもしれませんが、女の子向け、で真っ先に連想したのが「ネコ」というモチーフで、これまでにもネコが主役のモビールをいくつか作ってきました。でも、どうもウケが悪い。僕自身も何かしっくりこないモノを感じながら、どこをどう直していいかも分からず悪戦苦闘をする日々が続きました。

その後も、お姫様を題材にしたモビール、妖精やチョウチョをモチーフにしたモビールなど、思いつく限りの女の子向けモビールを作りましたが、どこか納得できず、ほとんどのものがお蔵入りとなってしまいました。それで気づいたのは、きっと僕が作ろうとしていたのは「男の子目線から見た、女の子向けのモビール」なんじゃないか、ということでした。男性から見た女性像とでも言えばいいのでしょうか。一度、男性目線のフィルターがかかってしまっているのです。

Predawnそう思った途端、なんだか逆に肩の荷が下りました。というのも、本当に女性目線のモノを作ろうと思ったら女性になりきる以外なく、男性の文化の中で育って来た僕には、それは無理な話だからです。それで、もう一度、素朴な気持ちで、浮かんで来たモノを作ろうと思いました。最初の頃と違うのは、女性にはなれないんだと理解したこと。こうして出来上がったモビールが、この「少女の見た夢」です。英題は「Predawn(=夜明け前)」というのですが、夜明け前にベッドで寝ている少女の夢を想像して作りました。部屋を飛び出して、空を飛ぶ少女。地上にはヒツジ、空には大きな白鳥が浮かび、少女が飼っている二匹のネコ(やはりネコは登場!)が見守っています。

Predawn毎回のことですが、女性である妻に最初に見せました。しばらく見入ったあと、「なんで白鳥なの?」と妻。
「いや、特に理由はないんだけど、浮かんできたから」
「ふーん、白鳥、好きだから良いけど」
これで良いと思いました。なぜだか分からないけど、今回は女性に受け入れてもらえるような気がしました。そして、ほんの少しだけ女性の目線が分かったような気がしたのです。