第6回 妙高山で紅葉と氷にタッチ!

 10月の初め、平年より二週間ほど早く妙高山に初冠雪があった。そのため、山頂の木々は紅葉を待たずに枯れてしまったという。それでも麓の燕温泉周辺はこの時期、「錦」という織物のイメージそのままに、鮮やかに染め上がっていた。

photo1 錦秋の惣滝
photo1:錦秋の惣滝
photo2 霧で滲む紅葉
photo2:霧で滲む紅葉

 

 ときどき鳥がなく以外は、何の音もしない静かな山。空気は冬の冷たさを孕みながら、遠くの山も貫きそうなほどどこまでも澄んでいる。それなのに、頭上で足下で赤や黄色やオレンジが爆発している。どこから湧いてくるんだろう。こんなに激しい色が、この葉っぱのどこに潜んでいるんだろう。静けさと激しさのギャップ。これが、この時期にどうしても会いたくなる山の魅力だと思う。


 でも、そんな魅力を押しつけたり、「山頂で紅葉が見れないなんて」「今年の冬は雪が多くなければいいのに」「こんな高い所で雪をかぶって木は寒くないのかしら」・・・なんて杞憂するのは人間だけで。彼らは彼らの場所で、ただ自分に訪れる環境の変化に全身で応えているだけ、強かに生きているだけ。そんな真っすぐなエネルギーをもらいながら、私もただ前へ前へと歩を進める。
 

photo3火打山頂。雪が積もっていた
photo3:火打山頂。
雪が積もっていた

 高谷地ヒュッテに泊まった朝、まだ暗いうちに火打山に登ってきた。ちらちらと舞う氷のような雪で体が冷えていたので、朝ごはんにしたインスタントのポタージュが、最高に美味しかった。昨晩から会話を交わしていた、茨城からの三人組が小屋を出ようとしていた。「いい出会いでした」と言い合って、ハグをして見送った。そのおじさまからは夜に「一人だったから無事に帰ったかと思って」と、まったく自然な気遣いの電話が来た。山で出会う人のさばさばした、でも温かい心にはいつも嬉しくなる。
  

 

 妙高山へ向かう。黒沢池からはぬかるんだ急登が続く。しばらく漂っていた雨雲がすっと抜けたかと思うと、黒くふくらんだ頂が青い空をバックに目の前にどっかりと現れた。真っ白く光っているのは、どうやら朝の冷えこみで氷をまとったシラカバの林のようだ。"太陽で氷が解けてしまう前にあの場所へいきたい!" そう思って、手足全身を使って岩場を這い登る。
 

photo4 黒沢池の平原
photo4:黒沢池の平原
photo5 白いトンネルが続く
photo5:白いトンネルが続く

 

 そこにはやはり、今までに見たこともない景色があった。シラカバの木が、先端の枝先にいたるまで氷をまとい、太陽を受けて凛と光っていた。そのトンネルが山頂まで続いていた。私は一人「うわー!」「おおう」と感嘆とため息を吐いた。

photo6シラカバと赤い実のコントラストが不思議
photo6:シラカバと赤い実の
コントラストが不思議
photo7シラカバのクリスタル。光がきれいに入る
photo7:シラカバのクリスタル。
光がきれいに入る
photo8妙高山。白い樹林がみえる
photo8:妙高山。
白い樹林がみえる

 

 "なんだろう?これはなんだろう?"
 

 白じゃないし、銀じゃないし、ダイヤモンドとも違うし・・・そして思い当たった、これは「クリスタル」だ。水晶。色あるものを浄化してくれる力。ああそうか、こうやって氷は光を集めて、冬の間に木々を清めてくれているのか。その解釈に納得し、氷の先の太陽に目を細めた。
 

妙高大神をお参りして、山頂へ。鹿島槍ヶ岳を含む北アルプスが雲の上にのぞめるほどに快晴。うっとりしながら下り、称名滝と光明滝のスケールに唖然とし、締めくくりは有名な露天温泉・黄金の湯に蕩けた。霧の中の紅葉も美しかった。自然のいろんな表情に出会えた、妙高山のよき山行でした。

photo9妙高山頂にて
photo9:
妙高山頂にて
photo10称名滝。大地から出てる感じ
photo10:称名滝。
大地から出てる感じ
photo11黄金の湯。ブナの葉っぱで遊べるお風呂
photo11:黄金の湯。
ブナの葉っぱで遊べるお風呂

 

<コースタイム>
一日目:9:30 燕温泉==12:30 三ツ峰==15:30 高谷地ヒュッテ
二日目:4:45 高谷地=火打山=8:00 高谷地==黒沢池==11:30 妙高山==北地獄谷==15:30 燕温泉

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