8月1日(月) ~
8月21日(日)
漂流する肖像 中川暁文
本展は2016年頃から収集した誰かの遺品であったであろうものをモチーフに制作した一連の作品群を展示する。
誰かの遺品であったであろうものたちはそれぞれが個人の記憶の断片であることを示唆するもので、一度忘れられ手放されたことでその詳細を失ってはいるが、かつての所有者の分身の一部として今もここにある。
私は、それらの出会ったものを所有することで、所有者の分身としてのイメージ「誰か」を社会における消えゆく記憶の先端として見つめ向き合った過程を含め、ながく遠くに運ぶために強固な支持体に定着させる。
銅板に油彩という技法は、日本における一般家庭内での保存について考えたときに、時間的にも距離的にもより遠くに運ぶことのできる舟となる。
宣教師がヨーロッパから日本に持ち込んだ聖画像の多くが長い航海における保存と携行の便から銅板油彩であったとされることからも、絵画の保存に適さない環境において小型の銅板油彩は長期保存あるいはその移動に耐えうる可能性を持っていると言える。
銅板に定着した誰かのイメージはこれからの時代の漂流物の一部として、一般家庭の棚や押入れ、引出しの中で保存されさらに長い時間を旅することになるだろう。
本展ではインターネットオークションや古道具店で購入したものを中心に、人づてにいただいたもの、お借りしたもの、あるいは自身の家族に関わるものをモチーフに制作した「誰かの遺品」「誰かの肖像」「家族の肖像」の銅板油彩を出品する。
また、これらの銅板油彩とそのイメージのもとになったもの、あるいはその周辺のものたちも同じ空間内に展示する。
作品の展示方法は、その保存先として設定している棚や引き出しに収納した状態で展示する。
それは、ほとんどの家から出てくるであろう過去とのつながりをもつものが収納されている場所と重なり、家の普段は開けない引き出しに仕舞い込まれたものに出会うような鑑賞体験は、匿名の”誰か”からより身近な存在を想像することのできる場所になると考えている。
- 中川暁文(なかがわ・あきふみ) - 略歴 1989年 三重県生まれ 2015年 金沢美術工芸大学大学院美術工芸研究科修士課程油画コース 修了 現在 石川県金沢市在住 《個展》 2014年 「Floating things」 金沢北陸銀行中央支店 2018年 「覚めて見る夢」 Cafe & Gallery ミュゼ 2021年 「透明なまなざし」 大和温泉番台 (以上石川) 《グループ展》 2014年 二人展「日常からの風景」 ギャラリートネリコ(石川) 2015年 第11回世界絵画大賞展 東京都美術館(東京) 2018年 公募第2回アートハウスおやべ現代造形展 アートハウスおやべ(富山) 2019年 「発芽」新進画家4人展 津松菱ギャラリーアイ(三重)