『あたりまえ過ぎた2人展』後編

2016年夏の「よろずの光―面白い 堀尾貞治・山下克彦あたりまえ過ぎた2人展」では、最終日にもパフォーマンスとトークを行った。会期の始めと終わりに2度もする、ということはあまりないが、古道具担当が展示のまとめ替わりにしたいとお二人にお願いしたのだった。

9月中頃の最終日、早い時間にみえたお二人は再び納屋に向かう。そして店の改修に使った木材の残りを引っ張り出し、店の前面にどんどん立てかけてゆく。早すぎて展開についていけない!と戸惑いながら、デジカメ片手に追う。徐々に集まってきたお客さんもそれを手伝い、瞬く間に店頭に「にわか彫刻」が出来上がる。

続いて山下さんのパフォーマンス。店の側道に、観客の一人が荷造り用のビニール紐の端を持って立っている。それをもう一人の観客が走って伸ばしていく。「もっと、もっとぉ!」と山下さん。50mは伸びたかと思うその真ん中を、山下さんがハサミで切る。ズンッ!という重たい音が響く。不思議な余韻の中、「空気を切る」と山下さんがタイトルを告げる。

そして顔馴染みの人たちによる飛び入りのパフォーマンスが続き、最後はお椀レース。初日を受けての“遊び”だ。観客の名前を書いた紙をお椀に乗せ、堀尾さんがどんどん流す。レース終了後、1~3等賞に堀尾さんの一分打法の作品をプレゼントというサプライズがあった。

盛り沢山のパフォーマンスの後、「にわか彫刻」は堀尾さんの「撤収!」という掛け声のもと、速やかに撤去された。皆さんの協力のもと、木材はあっという間に納屋に収まり、店は何もなかったかのように古い佇まいに戻った。

休憩の後はまとめのトーク。みなひと仕事終えた打ち上げムードでこのまま解散かと思われたが、和やかな雰囲気の中から自然に話が始まった。表現とスタイル、民俗学、生活と美術… 文字にすると固い感じになるけれど、初日よりもざっくばらんに話が伺えたよい時間となった。この時のことは、初日の話と併せて手作りの冊子『よろずの光―面白い』にまとめた。なるべく話し言葉のまま文字にしたので大変だったが、ここで起こったことをそのまま伝えることはある程度できていると思う。堀尾さんが亡くなった今は、尚更そう思う。

それにしても、お二人は本当に凄まじく、瞬間を間近で目撃した者には大きな衝撃だった。言葉を交えることなく眼差しと動きだけで気をやり取りして、形を為していく。そのスピードと気迫、集中力。日夏でのことはお二人の数多くの仕事の一つに過ぎないけれど、当意即妙に展開される行為がお二人の“あたりまえ”の在り方かと思うと、厳しさがこちらに突き刺さる。

山下さんには今でも展示やトークをしていただいている。その度にお話を伺うと、あんなにシンクロしていた仕事でも、実はそれぞれの考え方の違いがあってこそ成り立っている、ということが見えてくる。時間が経たないと見えてこないことは、これからもまだまだあるだろう。

「反故による 山下さんの"紙で"」 紙にアクリル、水彩、鉛筆
「反故による 山下さんの”紙で”」 紙にアクリル、水彩、鉛筆

2021年に行ったの山下さんの展示で、山下さんは白い紙(ごく普通のコピー用紙)を店内のあちこちに置いた。板壁、道具、縄文土器の傍ら…。照明器具の上にも1枚。ある朝、それが店の天窓からの朝日を受けて、美しい空間を作っていた。白い紙は、モノに光を与える装置で、そして光だった。

能登半島地震で被災された皆様に謹んでお見舞い申し上げます。
おつらい状況が続くと存じますが、どうか前向きなお心をもってお過ごしいただけますよう願っております。