『あたりまえ過ぎた2人展』前編

この秋、神戸のBBプラザ美術館で「堀尾貞治 あたりまえのこと 千点絵画」が開かれている。古道具担当は堀尾さんに大きな影響を受けていて、何かにつけて話をする。堀尾さんの仕事には様ざまな引き出しがあるが、出会いは“落書き”だったそうだ。ある彫刻のカタログ全頁に描き込んで、自分の絵にしてしまう。最初は「ふざけとる!」と腹が立ったが、よく見てみると元よりも「明らかにようなっとる」らしかった。 

山下克彦さんは陶の仕事をしていたが、堀尾さんと出会って衝撃を受け、以降相棒のようにしばしば活動を共にするようになる。淡日の空間が出来たら展示をお願いしたいと考えていた古道具担当は、店の1周年に堀尾・山下両氏の二人展をしたいと言い出した。山下さんも自身の作家活動をしているので、改めて二人展でそれぞれの仕事の提示をしたいとのことだった。

2016年8月『よろずの光―面白い あたりまえ過ぎた2人展』を行うこととなり、事前に店や地域、近江に関する古道具担当の考えをまとめた手書きの地図と資料を、お二人に渡した。他に打ち合わせはなく、山下さんに聞いても「木ぃで何かしはる」と言うだけだった。

初日の朝、お二人は到着後すぐに納屋に入り、中のものをチョークで縁取りしていく。暗がりからモノの形が浮き上がる。外の植木鉢から染み出した水もなぞる。その後持ってみえた模造紙大のコラージュを、店を覆うように外壁にタッカーで貼り付ける。屋根の上の物見台にも(会期中強風で一部ちぎれて吹き飛ぶ)。ギャラリーでは、各々の作品を古道具担当が展示していく。そして店の前で山下さんが石と墨でモノタイプを作り出す。しばらくして堀尾さんが、納屋から漆塗りの椀の箱を持ち出し、川まで走って来てひとつずつ浮かべて流し始める。最後に木箱まで流し、下流で山下さんがそれを掬い上げ中の水をザーッと流す。

矢継ぎ早のパフォーマンスの後、午後から座談会が行われた。濃密な話の中からそれぞれ。堀尾さんは、日向水を例に「夏、行水のたらいに張った水にゴミが浮かぶんですわ。指で水面つつくとゴミが逃げてく、それが普通の生き方ですわ。でも、指突っ込んでびゅっと引っ張ると、ゴミが全部くっついてくるんですわ… ぎゅっと引いてもうたら、何やそこにあったもんがみんなついてくる…(美術って)そういう構造を持っとるんですわ」。

山下さんは、物事を芸術の方から見ない。「誰でも毎日やってることを、作品やと思うて、その意識でやる、そういう見方をするかしないかだけの話でしょ。見方を広げていく方がおもろいですやん。(自分を)芸術というところにぎゅーっと持って行くよりね」。夜、バケツで川の水を汲んで橋の上から流すとか、枝を削るとか、そういうことをずっと、時に10年くらいしていたことがあった、と後で聞いた。

怒涛の初日はお二人の動きについて行くのが精いっぱいで、その場で考えることなどできなかったが、「全てが事前に渡した資料に即している」と古道具担当が後日言った。お椀を流したのも、近江商人が木地椀を携え、川から北前船で行商に行くことに通ずるのだそうだ。えぇー? 堀尾さんが納屋のお椀を持ち出したのは、たまたまでは? と私は思ったが、その場に在るものを生かすのは堀尾さんの常套手段だ。瞬時の判断でなされる偶然が、その場における必然として目の前に現れる、しかも川に流れるお椀となって。これが堀尾さんの力だし、箱を掬い上げて溜まった水を流す落ち着いた山下さんの姿も、何とも言えずとてもよかった。

後編に続く

粗目の小川和紙にボロくちびたオイルバー 2021年
「何となく、堀尾さんぽいなぁ…」と思っている反故紙のドローイング。ざらっとしたものが引っかかってくるような質感が、そう思わせるのだろうか。
粗目の小川和紙にボロくちびたオイルバー 2021年

トークについて山下さんとトークしたい
BBプラザ美術館のトークから感じたことを、山下克彦さんに尋ねます。
12/10(日)14:00より よろず淡日にて(要予約)
*BBプラザ美術館 堀尾貞治 あたりまえのこと 千点絵画 勝手に連動企画