前回まで、海をつぶす巨大防潮堤計画について緊急の話題を提供をしました。今回からは、山の森をいろいろな動物や樹木や植物で満たして豊かにしていく物語です。
あなたは、クマタカやイヌワシが空を飛ぶ姿を見たことがありますか。どちらもあるとしたら、「希少種」といっていいくらい幸運な人。かくいう私も、はるか遠くの林道から望遠鏡でそれぞれ、巣の近くで子育て中の姿を覗き見たことしかありません。翼を広げるとイヌワシは2m、クマタカは1.5mにもなり、尾羽もめいっぱい広げて堂々たる姿で飛翔して獲物を狩る、食物連鎖の頂点に立つ「森の王者」たちです。死ぬまでに一度は目にしたい――ナチュラリストならそう願わずにはいられない、とか。
でも、その王者たちの棲む森林環境が悪くなって数が減り続け、今や希少種に指定されています。どちらも絶滅が危惧され、とくに奥山に暮らして広い草原のえさ場が必要なイヌワシの状況はとても厳しいものです。

(左)クマタカと(右)イヌワシのペア 撮影:高野丈
そのイヌワシとクマタカがともに棲む広大な森林が、群馬県の北部の新潟県境に残っています。「赤谷(あかや)の森」と呼ばれる約1万haの国有林。そこには、2,000mの山から天然林、人工林、赤谷川や渓流、そして里山の古い温泉まで、じつにいろいろなタイプの自然があるので、野生動物はほかにも、ツキノワグマ、ホンドテン、ニホンカモシカ、リス、ヤマネ…などなどが棲みこなしていて、とてもにぎやか。もちろん、多くの樹種がしげる森には昆虫や両生類、キノコなども、いろいろと目にすることができますよ。
こういうにぎやかで愉しい森をまるごと守り、時間をかけてもっともっと豊かな森にしていこう――というのが、NACS-Jがかかわる赤谷プロジェクトです。赤谷の森づくりを、地元の人々の協議会、林野庁関東森林管理局、NACS-Jの3者が話し合いながらいっしょに進めている未来のための壮大な仕事。このプロジェクトのきっかけをつくってくれたのは、なんと、飛翔するイヌワシのペア(カップル)だったのです! その詳しい物語は次回にいたしましょう。