人々と生き物たちの海の物語はまだ終われない

大々的なボーリング調査再開後、キャンプ・シュワブ前には反対する市民が座り込み、埋め立てを認めない県知事が誕生し、沖縄の民意vs.日米政府の対立がきわだっている。争いの海に戻った辺野古にジュゴンは姿を現さなくなった。そんななか、前回書いたジュゴン訴訟が海の向こう、サンフランシスコの連邦裁判所で再開された。

「嵐と停電で審理は予定の翌日、12日に延期されました。傘をさせば出歩けるくらいだったので、裁判所が閉鎖になったのには驚きましたが」。沖縄から出向いて出廷した弁護士さんからの報告だ。聴取は無事に済み、ジュゴン訴訟は再開された。アメリカの国家歴史保存法という法律が辺野古にも適応されるとサンフランシスコ地裁が認めてから7年余り。今のまま工事が行われれば日本の文化財であるジュゴンを絶滅させるかもしれないから対応策を取るように、と。米国防総省は今春になってようやく、「検証の結果、ジュゴンに影響はない」と唐突に通知してきた。沖縄の人々への相談もなく、原告にも寝耳に水。「検証」の報告書も公開されていないのだ。

今回、ジュゴン・自然保護団体側はもちろん、検証はやり直すべきで、ジュゴンが守られる条件がそろうまでは工事に手を付けてはならないと訴えた。対する国防総省は「外交や国防問題に裁判所がもの言う権限なし」と却下を求めた。ジュゴン側は「いや、法を守ってジュゴンを保護することはアメリカの安全保障の邪魔にならない」と反論している。

生き物も人も自由に出入りできた以前のキャンプ・シュワブ前の辺野古(2010年7月、日本自然保護協会撮影)

生き物も人も自由に出入りできた以前のキャンプ・シュワブ前の辺野古(2010年7月、日本自然保護協会撮影)

辺野古問題に長年取り組む日本自然保護協会の安部真理子さんは、「世界中がいま辺野古とジュゴンのゆくえに注目しています。あのあたりの海は2010年に日本政府自身がラムサール条約湿地の候補リストに載せているんですよ。科学的調査もきちんとしないで工事をするのは、日本政府もアメリカ政府も法治国家として許されないこと」と怒る。

埋め立てられる海域の生き物たち(有光智彦氏提供)

埋め立てられる海域の生き物たち(有光智彦氏提供)

ジュゴン側が裁判所に提出しているジュゴンと沖縄の関係に関する文献は150を超える。神の使いとしての存在から、食肉や薬として珍重された歴史、平和の象徴となった戦後の童話、歌や絵に至るまで、いろいろな姿と意味をもつ生き物として沖縄の人たちと付き合ってきたのだ。「旧くからの友人たちを絶滅させないでくれ」と言うだけで破壊を止められる世の中になるまで、ジュゴンは待っていてくれるだろうか。沖縄とジュゴンの物語はまだ終われない。(沖縄のジュゴンに関しては動きがある機会にまた報告します)           

ジュゴンのはみあとを調査する市民たち(日本自然保護協会提供)

ジュゴンのはみあとを調査する市民たち(日本自然保護協会提供)

ダムネーション その2 荒瀬ダム 「カムバック・アユ」で取り返した流れ
ダムネーション その1 アメリカのダム撤去 ユーモアと情熱で役立たずになったダムを取っ払おう。
沖縄のジュゴンと辺野古 その5 人々と生き物たちの海の物語はまだ終われない
沖縄のジュゴンと辺野古 その4 アメリカの法律が沖縄の文化を救う?
沖縄のジュゴンと辺野古 その3 埋め立て手続きが進むたびに姿を現わす
沖縄のジュゴンと辺野古 その2 つかのまの平穏な藻場に通うのは若い1頭?
沖縄のジュゴンと辺野古 その1 埋め立て予定地に戻ってきた人魚の「はみあと」
中津干潟その2「漁師さんを応援しなきゃ」
中津干潟 その1 カブトガニいっぱいの潟をアヤシイ調査隊が行く
日本のカメさがし!その3 飼っている動物はけっして逃がしてはいけません。
日本のカメさがし!その2 ミシシッピ産に押しやられ日本のカメ大劣勢に
日本のカメさがし!その1 伝統的な人気動物キャラ、日本のカメさんは危機的!?
「森の新しい楽しみ方」を知ってもらうのも赤谷プロジェクト
イヌワシが教えてくれた「赤谷の森」の行き先
「森の王者」が翔ぶ姿を見たことがありますか?
あなたの大好きな海岸が巨大防潮堤になる日
津波後の海は元気回復中。いま押し寄せるのは「巨大防潮堤計画」!(後編)
津波後の海は元気回復中。いま押し寄せるのは「巨大防潮堤計画」!(前編)
写真

保屋野初子(ほやのはつこ) プロフィール

2012年から日本自然保護協会理事。水や森林をテーマに国内外の現場取材を重ね、環境ジャーナリスト・研究者として活動。ご先祖たちが子孫を想い、つくりあげてくれた日本の景観と恵みを愛し守りたいと希って日々仕事に励んでいる。


to top