日本食が世界遺産に登録されても、魚食ニッポンは絶滅の危機にある。あと数十年もすれば日本の沿岸漁業が消えてしまうかもしれない。漁師さんの高齢化もそうだが、何より漁獲量が激減している。山から沿岸までコンクリート漬けになり養分が海に届かない、干潟も埋め立てられた。東北の巨大防潮堤、まだ造るダム、開かずの諫早湾など、漁業への脅威は増すばかり。干潟は、陸と海とをつないで生き物を育む最後のとりでだ。日本有数の広大な干潟、中津干潟で生き物とがんばる活動を2回にわたり報告しよう。
「今日はPM2.5がすごい」と同行者が言う。聞きしにまさる“濃さ”。私はPM2.5でなく中津干潟を見たくて大分県中津市を訪れたのだが。夕方、干潟に着くとちょうど潮が引き始めていた。無数の水たまりがあるじゅくじゅくの黒っぽい陸地が刻々と沖のほうに延びていく。「もう少し待ってると、ずうっと向こうまで歩いて行けるんですけど。見えてる水平線より先までですよ」と事もなげに言うのは、この干潟で15年間“活動”する足利由紀子さんだ。
PM2.5のせいか水平線ははっきりしないが、最大のときは約3キロ先まで干上がり、1,347ヘクタール(甲子園グラウンドの103倍)にもなる。瀬戸内海(瀬戸内海の西端)で奇跡的に残った日本有数の広大な干潟。ここで、地元の子どもたちを遊ばせ続けているのが足利さんたちの“干潟活動”だ。1999年始動のNPO法人「水辺に遊ぶ会」は、140回以上の観察会、ビーチクリーン50回以上、400回を越える干潟調査、約360回にのぼる学校への出前講座……と、気が遠くなるような実践を重ねてきた。
「始めた当時、ここを埋め立てる計画があったんです。私は結婚してこちらに来て、はじめて生きたカブトガニを見て、こんな干潟があるんだって感激して、うちの子たちだけじゃなくて大勢の子どもたちにここを残してあげたいとすごく思ったんです」。
「開発反対じゃなくて、まずは干潟の『調査』を有志で始めた。そうしたら“密漁者”だと思われて。以来、『アヤシイ干潟調査隊』って名乗ってやり続けてますよ」と豪放に笑う。
調べ出したら、いるわ、いるわ。カニ、アサリ、ハマグリ、エビ、ハゼ、タコ、カレイ……お馴染みの魚貝類はもちろん、泥の中に棲む不思議な生き物たち、それを食べる鳥たち。2億年進化していないというカブトガニまでうじゃうじゃいるではないか。
(つづく)