前回は、東日本大震災の大津波によって、森と海が出逢う豊かな漁場が破壊され尽くされたことを書きました。しかし・・・人の営みを破壊するほどの大津波に遭いながら、自然のほうはもう、新たに生まれ変わりつつあるようです。気仙沼市の唐桑町西舞根(にしもうね)集落でカキ養殖を再興中の畠山信さんは、父親の重篤さんらを中心に設立した「NPO法人森は海の恋人」の後継者(副理事長)でもありますが、こんなふうに話します。
「集落に湿地が新しくできているんです。津波の前は使われていた土地ですよ。そこを今、野鳥が大いに活用してます。一時はオオハクチョウが内陸の湿地と間違えて飛んできて着地に失敗したり…。アサリが大量に発生してニホンウナギもけっこういる。子どもたちの格好の遊び場になっていますよ」。
畠山さんも自宅、養殖いかだ、育てていたカキとともに失いました。地域は地盤が約80センチも真下に沈んだために集落ごと高台に移転し、毎日浜に下りては漁業の再開に取り組んでいるところです。そして海は、震災前よりむしろ豊かになっているように感じるといい、カキも順調に育っているので「もう少しだけ待ってください」と、カキの次のシーズンの収穫を約束してくれました。
力づよく生き還りつつある海辺の自然(詳しくはhttp://www.nacsj.or.jp/ からNACS-Jの東日本海岸調査結果、防潮堤に関する国への意見書などをご覧ください)と漁業者、地区の人たちがいま深く悩み苦しんでいるのが、「巨大防潮堤計画」です。三陸の少なくとも宮城県の海岸という海岸、川岸を最高は14.7メートルものコンクリート壁でほぼ囲ってしまう、とてつもない復旧・復興計画。いわば陸からの大津波です。
昨年から地元で唐突に「高さ」説明会が開かれるようになったのですから、地元の人たちが戸惑うのは当然でしょう。いつかまた必ず来る大津波は怖いけれど、海が見えない、近づけない、漁のじゃまになる、ほとんどが高台に移転するのになぜだ?……。国と県は「まず巨大堤防ありき」で考えている、と心配する住民も多くいます。いちばん危機感をおぼえ反対を口にし始めたのは若手の漁師さんたち。ピラミッド級の“重し”が「森は海の恋人」を今度こそほんとうに切り裂いてしまうからです。
次回は、「巨大防潮堤計画」がどんなものなのかを中心にお伝えします。どうやら、東北の海岸だけでなく、日本中の海岸に計画が及びそうだというのです・・・。