日本の海の最後のジュゴン、絶滅危惧種のジュゴンを辺野古基地建設から守れる法律は、日本にはない。最後の砦だった環境アセスメント法は、実際に埋め立て工事が始まった後に適用されるので、ジュゴンに影響を与えているこの夏からの本格的なボーリング調査などを止めることができない。しかし、アメリカにはジュゴンを守れるかもしれない法律がある。国家歴史保存法という法律だ。
この8月、サンフランシスコ地方裁判所は、「ジュゴン訴訟」再開の申し立てを受理した。ジュゴン訴訟というのは2003年に、ジュゴンを筆頭に日本の3人の個人、3つの保護団体、法律家団体、そしてアメリカの2つの団体が原告となって「絶滅の危機にあるジュゴンを保護し、基地を移設してはならない」と、米国防総省を訴えた裁判だ。裁判所は2008年に違法だとして、ジュゴンへの悪影響が出ない措置を国防省に求める判断をしたものの、米国防省が放置したままになっていた。それが再び動き出す。
え、ジュゴンが原告だって? そう、アメリカでは野生生物が自然保護団体と一緒に原告となって開発側を訴える裁判が、1972年からたくさん行われている。動物や植物が原告と認められ、そのうえ原告側が勝った裁判まである。こういう裁判は、自然物にも法律的な権利が認められるべきだと主張した論文から始まったので「自然の権利訴訟」と呼ばれている。
アメリカの裁判はすごい、と驚く人は多いだろう。しかし、じつは日本でも「自然の権利訴訟」は行われている。その名を有名にしたのが、奄美大島の天然記念物・アマミノクロウサギなどの野生動物と地元の自然保護団体が原告になってゴルフ場開発を中止させようとした「奄美自然の権利訴訟」だ。鹿児島地方裁判所は動物原告を認めなかったけれども、人間が動物に代わり、生息地が壊されるといかに困るかを訴えて話題をよんだ。こういう訴訟はこれまでに少なくとも20前後あり、登場する生物もオオヒシクイ、ウミガメ、ナキウサギ、アユ、オオタカ、ムササビ、昆虫などなど実に多様多彩なのだ。(自然の権利)
アメリカの裁判所が日本のジュゴンや人間の訴えをちゃんと受け止めてくれるのは、アメリカの国家歴史保存法のおかげだ。この法律は、アメリカが外国で行う活動も相手国の文化財保護法で保護されているものを守らなくてはならないと定めていて、守られない場合は米国人でなくても訴えることができるからだ。アメリカの基地は辺野古の海をつぶそうとしているが、他方でこの法律は辺野古を救う可能性も持っている。自分の国の貴重な海と動物を自分の国の法律で守れないのが悔しい。