あのミドリガメがじつは、日本のカメたちを駆逐しつつあるミシシッピアカミミガメだと前に書きました。ここまで読んでくれた読者ならもう、何が問題かわかったと思います。アカミミガメ問題の“元凶”は、縁日やペットショップで買ってしまったあの「ミドリガメ」だった! と言っても、カメたちに責任があるのでなく、外に逃がした“飼い主”たちのせい(心あたりありませんか?)なのです。外に出たカメたちが、自分たちが生きて繁殖するために、そこにいた日本のカメたちの生息地を奪うことになったのですから。
ところで、カメが吊されているこんな浮世絵(右図)を見たことがありますか。この絵は、飼っていたカメをお寺の池に放してあげる、「放生会(ほうじょうえ)」と呼ばれる仏教の行事にのっとった一場面のようです。すべての生き物への“慈悲”を重んじる日本の仏教ならではの習慣か、カメや魚をお寺の池に放すことは「善い行い」でした。その心がどこかに残っているのか、現代の日本人も、困ったペットを殺処分するよりは「放生」のほうを選んでしまうようです。
良く解釈すれば“慈悲心”からですが、実際には自然界に大迷惑をかけています。いわゆる「外来種問題」です。もちろん、悪く取ればたんなる無知で無責任な“悪行”ということになります。動物を移動させてもごく近隣にかぎられていた江戸時代とはまったく事情が変わってしまったのです。
外来種問題は、カメ、動物にかぎりません。人間が海外や地域外から持ち込んだ動植物はみな「外来種」ですが、そのなかでも、もともとの動植物や人間にも深刻な影響を与える生物種は「侵略的外来種」などと呼ばれて、大きな問題になっています。最近は公園の池にワニが棲んでいた!などというニュースに驚くこともありますが、ここでは、カメと同じように楽しみ目的で人間がふやした代表として、ブラックバス(オオクチバス)、アライグマの例で考えてみましょう。その困った実態はNACS-Jの特集「エイリアン・スピーシーズ」などに詳しいですが、問題への対処法がもはや「駆除」くらいしかなくなっています。
できれば駆除などしたくないですが、もう一度、問題の“元”にさかのぼってみます。ミドリガメと似ていて、捨てられて増えたアライグマの場合は、可愛いから飼ってみたけど成長して気性が荒くなり手に負えなくなった、だから逃がした(捨てた)という理由が多いでしょう。ブラックバスは釣りのために、当初は問題が予測できなかったとしても、その後は影響を知りながら湖や川にわざと放流されました(されています)。「密放流」と言われることまでして放す理由は、ただ「釣って楽しみたい」という利己主義的な行動のようです。
駆除や殺処分は慈悲深い(?)日本人にはしのびないことですが、それ以前に、外来種を欲や楽しみのためにむやみに取り込む今の私たちの生活、さらには飽きたり困ったら捨てる(放す)といった行為のほうを直さないかぎり、もとからの日本の動物は絶えていき、捨てられた動物も駆除される運命に追いやることになるのです。因果の「因」のほうを断つこと、それが本当の動物愛護ではないでしょうか。だから、飼っている動物はけっして逃がさないでください。
外来種に関する情報と法律はこちらを参考に。